- 著者
-
佐久間 重
- 出版者
- 名古屋文理大学
- 雑誌
- 名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, pp.55-61, 2010-03-31
本論は,ラインホールド・ニーバーが彼の著作『人間の本性と運命』の中で展開しているキリスト者としての近代文化の捉え方を詳述したものである.ニーバーの解釈を見ると,ルネサンスや宗教改革についての一般的な解釈とは異なった,キリスト者の解釈が鮮明になる.ニーバーは,宗教改革の思想に対してルネサンスの思想が圧倒する形で近代文化が成立したが,近代文化の中には中世以来の聖書的な視点が連綿として続いていることを明らかにしている.つまり,精神運動としてのルネサンスは,人間の無限の可能性を肯定し,歴史に意味があるという概念を再発見することであったが,個人や歴史の成就というルネサンスの概念は,古典思想や中世のカトリックの合理主義に遡ることが出来る.これは,カトリック的神秘主義や修道院の完全さを求める姿勢の中に表されていた.こうした思想がプロテスタントの敬虔主義や近代の進歩思想の基礎となった.また,近代の進歩思想には,聖書の終末論にある希望が大きな影響を与えたが,20世紀に入り進歩思想の限界が明らかになり,思想的混迷が生じており,これを打破するにはルネサンス思想と宗教改革の思想を弁証法的に再検討する必要がある,とニーバーは述べている.