著者
岡本 央 広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.173-195, 2004-06-20
参考文献数
16

マガリガ科は,全世界に分布し,11属約100種が記載されている.Issiki(1957),Nielsen(1981,1982),Okamoto&Hirowatari(2000),奥(2003)などの研究により,日本産マガリガ科は現在12種が知られる.マガリガ科の幼虫は寄主植物の葉などを円形からだ円形に切り取ってポータブルケースを作り,寄主植物についても比較的よく知られているが,数種については寄主植物が不明のままだった.本稿では日本産マガリガ科に3新記録種を追加し,数種について寄主植物を含む生態を明らかにするとともに,頭部,翅脈,雌の第7腹節,雌雄交尾器を図示した.また,雌雄交尾器が未知あるいは記載が不十分だったものについては記載を行った.以下に,日本産マガリガ科15種の特徴,分布,寄主植物などの概要を示す.1.Phylloporia bistrigella(Haworth,1828)ヒメフタオビマガリガ(新称)(日本新記録)小型(開張8-9mm).前翅は金色の光沢がある黄褐色で,2本の細い銀白色の帯をもつ.Kuprijanov(1992)はPhylloporia属をヒゲナガガ科に含めたが,本稿ではマガリガ科として扱った.分布:北海道,本州;ヨーロッパ,北米.寄主植物:日本では不明.ヨーロッパではシダレカンバ(シダレカバノキ)やヨーロッパシラカンバ(カバノキ科)などが知られている.2.Vespina nielseni Kozlov,1987ホソバネマガリガ小型(開張8-11mm)で,前翅は細長く,茶褐色から黄褐色.後翅は細くやり状で縁毛が長い.分布:北海道,本州,四国,九州;極東ロシア.寄主植物:ナラガシワ,クヌギ,コナラ(ブナ科).本種の幼生期の形態・生態については,Okamoto&Hirowatari(2000)が詳しく記載した.3.Procacitas orientella(Kozlov,1987)ウスキンモンマガリガ中型(開張11.5-15mm).前翅は暗褐色で紫色の光沢をもち,基部1/3に銀白色の帯,前縁に2つ(基部1/2と3/4),肛角付近に1つの細長い銀白色の三角斑をもつ.基部の帯はFig.1Cの個体のように分断することもある.奥(2003)は,岩手県産の標本に基づいて本種を日本から記録した.分布:北海道,本州,四国;ロシア(サハリン,イルクーツク,沿海州),北朝鮮.寄主植物:ベニバナイチヤクソウ(イチヤクソウ科).本種の寄主植物は不明であったが,北海道大学昆虫体系学教室に保管されている標本のラベルデータによって明らかになった.4.Alloclemensia unifasciata Nielsen,1981ヒトスジマガリガ小型(開張7.5-10mm)で,前翅は暗褐色でよわい紫色の光沢をもち,基部1/3に明瞭な黄白色の帯,前縁2/3と肛角付近に三角斑をもつ.分布:北海道,本州,九州.寄主植物:ガマズミ,オオカメノキ(スイカズラ科).寄主植物としてガマズミが知られていたが,オオカメノキを新たに確認した.5.Alloclemensia maculata Nielsen,1981フタモンマガリガ中型から大型(開張12-16.5mm)で,前翅は暗褐色でつよい光沢のある紫から赤銅色を帯び,前縁に不明瞭な黄白色の2小斑をもつ.分布:北海道,本州,四国,九州.寄主植物:オオカメノキ(スイカズラ科).本種の寄主植物は不明だったが,飼育によりオオカメノキを利用することがわかった.6.Excurvaria praelatella([Denis&Schiffermuller],1775)タカネマガリガ(新称)(日本新記録)中型(開張10.5mm).前翅は褐色から暗褐色でやや紫色を帯び,基部1/3に細い白線,後縁の肛角付近に三角斑,前縁の基部3/4に三角斑をもつ.分布:北海道;ヨーロッパ,ロシア.国内では,日高山系の幌尻岳でのみ採集されている.寄主植物:日本では不明.ヨーロッパでは,バラ科のイチゴ類やキンミズヒキ属,ハゴロモグサ属,シモツケソウ属,ダイコンソウ属,キイチゴ属などが知られる.7.Paraclemensia caerulea(Issiki,1957)ムラサキツヤマガリガ中型(開張9-12.5mm).頭部は燈黄色,前翅は茶褐色で光沢のある紫から赤銅色を帯びる.分布:本州,四国,九州.寄主植物:コバノミツバツツジ(ツツジ科).那須(私信)は,本種の♀が1994年5月21日に滋賀県御在所岳でアカヤシオ(ゴヨウツツジ)に産卵するのを観察した.8.Paraclemensia viridis Nielsen,1982イヌシデマガリガ(新称)小型(開張10-14mm).頭頂は橙黄色,顔面は淡黄色.前翅は,黒褐色で緑色の光沢をもつ.分布:九州(福岡県).英彦山産のホロタイプ(♀)と同地産の2♀のみが知られる.寄主植物:イヌシデ(カバノキ科).Nielsen(1982)は黒子浩博士採集・飼育のタイプシリーズのラベルデータより,本種の寄主植物をCarpinus sp.として記録した.しかし,ホロタイプとパラタイプには日本語で「イヌシデ」のラベルがつけられおり,本稿であらためて本種の寄主として示した.9.Paraclemensia oligospina Nielsen,1982クリヒメマガリガ(新称)小型(開張9.5-11.5mm).頭頂は黒褐色,顔面は黒褐色から黄褐色で,顔面上部に淡黄色の鱗毛をもつ.前翅は,黒褐色で暗緑色の光沢をもつ.分布:本州,九州.ホロタイプ(♂)1個体(福岡県英彦山産)しか知られていなかったが,複数の♂と♀を大阪府,奈良県から記録した.大阪府和泉葛城山の山頂付近では,2002年4月下旬に成虫がコナラの花の周辺を飛翔していた.寄主植物:クリ(ブナ科).10.Paraclemensia cyanea Nielsen,1982ヒメアオマガリガ(新称)小型(開張12mm).頭頂と顔面は黒色で,触角のソケット間に淡黄色毛をもつ.前翅は黒褐色で,青色の金属光沢をもつ.分布:本州(長野県).茅野市美濃戸産のホロタイプ(♀)のみが知られ,その後追加標本は得られていない.寄主植物:不明.Nielsen(1982)は,本種の寄主植物についてまったく情報がないとしている.しかし,本種のホロタイプには採集者の黒子浩博士によって「シラカバに産卵中」という日本語メモ付けられていることから,寄主植物がシラカバである可能性が高い.11.Paraclemensia incerta(Christoph,1882)クロツヤマガリガ中型(開張9-12.5mm).頭頂は黒褐色で中央に黄色毛をもち,顔面は淡黄色.前翅は光沢のある黒褐色.分布:北海道,本州,四国,九州;ロシア.寄主植物:カエデ属(カエデ科),イヌシデ(カバノキ科),アズキナシ(バラ科),ネジキ(ツツジ科),フジ(マメ科)など,広範な植物を寄主とする.本稿では,標本のラベルデータよりハリギリ(ウコギ科),飼育によりクリ(ブナ科)を寄主植物として追加した.12.Paraclemensia monospina Nielsen,1982アズキナシマガリガ(新称)小型(開張9-12.5mm).頭頂は黒色で,顔面は淡黄色.前翅は暗褐色で光沢のある銅色を帯びる.ホロタイプのオス1個体しか知られていなかったが,アメリカ国立自然史博物館に所蔵されたメスを見いだし記録した.分布:北海道.寄主植物:アズキナシ(バラ科).13.Incurvaria takeuchii Issiki,1957クシヒゲマガリガ大型(開張10.5-19mm).触角は,♂では櫛歯状,♀では単純.分布:本州.寄主植物:リョウブ(リョウブ科).本種の寄主植物は未知だったが,飼育によりリョウブを利用することがわかった.14.Incurvaria alniella(Issiki,1957)ハンノキマガリガ大型(開張14-20mm).前翅は茶褐色で,後縁の基部1/3と2/3に小さな白斑をもつが,白斑が不明瞭に消失する個体もある.分布:本州,九州(対馬).寄主植物:ハンノキ(カバノキ科).15.Incurvaria vetulella(Zetterstedt,1839)コケモモマガリガ(新称)(日本新記録)大型(開張13-17.5mm).前翅は茶褐色で,後縁の基部1/3と2/3に大きな白斑をもつ.分布:北海道;ヨーロッパ,ロシア,北アメリカ.寄主植物:日本では不明.ヨーロッパではブルーベリー,コケモモ(ツツジ科)が記録されている.

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日本産マガリガ科の分布記録と生物学的知見。マガリガ幼虫がつくる構造物を「ポータブルケース」と呼ぶのがツボ。今日は久しぶりにマガリガ幼虫を採集できたので色々行動を観察してみた。 http://t.co/gZl8ufyu4X TransLepidSocJap

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