- 著者
-
カビール ファッツル
高須 晃
- 出版者
- 地学団体研究会
- 雑誌
- 地球科学 (ISSN:03666611)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.5, pp.183-192, 2010
- 参考文献数
- 34
四国中央部別子地域に分布するエクロジャイト質塩基性片岩には2回の独立した変成作用イベントが記録されている.すなわち,1回目のエクロジャイト変成作用イベントと2回目の藍閃石-バロワ閃石変成作用イベントである.エクロジャイト変成作用イベントのピーク変成作用は,エクロジャイト相の片理を形成する鉱物組み合わせ(ざくろ石,オンファス輝石,バロワ閃石,フェンジャイト,ルチル,石英)によって示される.この変成条件は,これまでの研究から610-640℃,12-14kbarと推定されている.ピーク変成作用の後,減圧を伴う降温期変成作用により緑れん石角閃岩相の条件(400-535℃,6-7kbar)となった.この変成条件は,エクロジャイト変成作用イベントのピーク変成作用を示す鉱物を置換する鉱物組み合わせにより示される.藍閃石-バロワ閃石変成作用イベントは,エクロジャイト相の鉱物組み合わせからなる片理を切って成長する顕著な累帯構造を示す角閃石の化学組成の変化から,緑れん石青色片岩相から緑れん石角閃岩相に至る昇温期の変成経路が復元できる.この変成作用は,エクロジャイト岩体周囲の三波川結晶片岩の昇温期変成作用と類似する.これらのことより,瀬場エクロジャイト質塩基性片岩は,エクロジャイト相のピーク変成作用の後,少なくとも藍閃石の安定な低温の変成条件の下で三波川結晶片岩と接合し,ともに昇温期変成作用を受けて緑れん石角閃岩相に達し,その後,現在の地表レベルにまで上昇したと考えられる.