著者
三谷 憲正
出版者
佛教大学国語国文学会
雑誌
京都語文 (ISSN:13424254)
巻号頁・発行日
no.4, pp.172-185, 1999-10-02

これまでの先行研究は、いずれも昭和一〇年の第一回芥川賞を基点としてそれ以降の両者を論じてきていた。が、ここで考えてみたいのは、太宰治の言説の表層にタームとして表れ出でなかった〈川端康成〉についてである。太宰治の「断崖の錯覚」「東京八景」「畜犬談」などの、一見不可解とも思われる叙述の裏側に、〈川端康成〉という補助線―特に「伊豆の踊子」「雪国」「禽獣」―を仮に設定してみることによって、その不可解感のよって来たる所を解明できないか、という試みである。本稿はそのことによって、太宰文学の抒情が、王朝文学の伝統を受け継ぎそれを現代に蘇らせた〈川端的抒情〉とは異なり、すぐれて〈土着的な日本〉の〈抒情〉だったのではないか、という点の解明を企図した。

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