著者
縫部 義憲
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.69-78, 2007-06-10

日本語教育学における研究の動向と展望を探るために,代表的な学会誌『日本語教育』((社)日本語教育学会)を中心として過去5年間(2002年度〜2006年度)の審査論文である「研究論文」・「調査報告」・「実践報告」(編集委員会が審査)と「口頭発表」(大会委員会が審査)を分析した。その結果,審査論文について「研究論文」では言語関係の分野に偏重しているが,「調査報告」。「実践報告」では教育関係の分野が多く,言語習得関係,言語関係,心理関係,文化・異文化関係の分野と続いている。後者と同じような傾向が「口頭発表」でも見られ,年少者日本語教育,専門分野別日本語教育,日本語教員養成,日本語教授法・指導法,第二言語習得研究,日本語文法研究,社会言語学的研究が主要な研究分野となっている。従来少なかった心理学領域と異文化間教育学領域が徐々に増えており,とりわけ認知心理学関係の手法を援用した調査・実験が目に付くようになった。日本語教育学においては,年少者日本語教育関連の調査が多く,中には参与観察法(質的調査研究)という文化人類学・異文化間教育学の手法を導入したものがある。さらに社会学・社会言語学領域の研究が注目されている。戦前から続く日本事情教育から脱皮して,最近では言語と文化の統合を目指す日本文化教育(総合的言語活動論),バフチン等の対話教育や状況的学習論(社会的・文化的アプローチ)が現れている。最後に,文化庁から平成12年3月に発表された「日本語教育のための教員養成について」という報告書は,日本語教員養成の担当者から厳しい批判を浴びているが,新たな教員養成カジキュラムの枠組みと幅広い内容を提示している。どのような日本語教育をするために どのような日本語教師が必要なのか,という観点から,日本語教育学のあり方についても考える契機を与えている。この報告書が提示しているように 日本語教育学は幅広い研究領域を有しているが,それらが一つのシステムとして成立することが求められる。 日本語教育学においても,日本語教育「学」か,日本語教育「研究」か,という議論が本格的に始まったところである。

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