- 著者
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樋口 大輔
- 出版者
- パーソナルファイナンス学会
- 雑誌
- 消費者金融サービス研究学会年報 (ISSN:13493965)
- 巻号頁・発行日
- no.1, pp.21-32, 2001-11-30
- 被引用文献数
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本研究は、消費者金融会社の収益および費用の構造が業者の規模によってどのように異なるのかを捉え、それをもとに貸付上限金利の引き下げの影響を分析する。消費者金融会社の収益と費用は、業者の規模によって大きく異なることが明らかになった。中小規模の業者は大手と比較して高コストであり、それを支えるために貸付金利を相対的に高く設定するという構造になっている。それゆえ、上限金利の引き下げにより中小業者の大半が深刻な業績悪化に陥ることが予測される。出資法に定められる貸付上限金利が2000年6月1日に40.004%から29.2%へと引き下げられたことによって、消費者金融業に対する次のような影響が考えられている。すなわち、(1)消費者金融会社の経営状態の悪化、(2)リスクの高い顧客層への融資不能、(3)違法業者の横行である。『貸金業者の経営実態等の調査』((社)全国貸金業協会連合会実施)によって集められた財務データに基づいて消費者金融業者の収益・費用の構造をみると、以下のようにまとめられる。消費者金融会社の収益構造は、貸付平均金利に比例して中小規模の業者が相対的に高い営業収益を獲得している。逆に、費用構造においては、小規模な業者ほど総貸付残高に対する費用の割合が高くなっている。したがって収益と費用の関係でみると、中小規模業者は収益力が高いとはいえない現状である。貸付上限金利引き下げの影響を分析するために、同データを用いてROEを算出し、その変化のシミュレーションを行った。ROEは平均して大手が20%前後、中堅以下の業者では3%〜10%程度であると推計される。平均金利が29.2%に引き下げられたと仮定して算出した場合、およそ半数の業者でROEがマイナスとなった。大手は平均的な貸付金利が29.2%をすでに下まわっているためほとんど影響がみられないが、中小業者は金利を大幅に低下させなければならないため、顕著な影響を受ける。このようなシミュレーションの結果により、上限金利引き下げの悪影響として考えられていることの一部が確認された。