- 著者
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得丸 公明
- 出版者
- 一般社団法人電子情報通信学会
- 雑誌
- 電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
- 巻号頁・発行日
- vol.110, no.357, pp.61-66, 2010-12-13
- 被引用文献数
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筆者は2007年に,今から13万年前から6万年前の居住が確認されている世界最古の現生人類遺跡,南アフリカ東ケープ州のインド洋沿いにあるクラシーズ河口洞窟を訪問し,言語の起源とメカニズムについて興味をもち考察を始めた.洞窟内部はきわめて安全でありヒトの晩成化と脳拡大を促したと考えられるほか,静かで暗いため居住者は音に敏感になる.また,洞窟は音響シェルターであるため,敵に存在を知られることなくいくらでも音を出すことができる.言語と現生人類は洞窟の中で生まれたのではないかと考えたのだ.言語のさまざまな過程についての知識を得るために,言語学,音響工学,通信工学,心理学,人類学・霊長類学,神経生理学,論理学,分子生物学,情報理論などの学際的著作を読んだ筆者は,ヒトとヒト以外の動物の唯一の根本的な違いは,音声通信のデジタル化,すなわち言語にあるという仮説を得た.しかし「デジタル」の適当な定義が見つからない.筆者はシャノンやウィーナーやフォン・ノイマンらの書いた情報理論の古典を読むことで,客観的で必要十分な「デジタル」の定義を確立しようと試みた.すると「デジタル」概念は思っていたよりも広く深く,「情報ネットワーク」や「自己増殖オートマトン」を可能にする原理であることがわかった.今回の発表は筆者が2010年を通じて情報処理学会,電子情報通信学会,人工知能学会の関連する研究会で20回以上にわたって行なった発表のまとめである.