著者
セラーノ・ルアーノ デルフィナー
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
no.27, pp.209-236, 2011-07-15

本論文は、ムラービト朝時代(11世紀末から12世紀前半)のカーディーとカーディー以外の裁判官(行政官)の関係を検討する。この問題は、ムラービト朝のもとでカーディーとマーリク派法学者が支配王朝を支持するのとひきかえに、前例のないほどの有利な地位をえていたとする通説にかかわる。カーディー以外の裁判官に対して理論的にはカーディーの専権のもとにある権限を賦与することはなくならず、それはカーディーの黙認によるものではなかった。ここでは、大イブン・ルシュド(450/1048〜520/1126年、コルドバの大カーディー、哲学者・医者として著名なイブン・ルシュドの祖父)のジナー(姦通罪)にかかわる一連の法学テキストに焦点をあてる。イブン・ルシュドのテキストを綿密に検討しそのコンテキストを再構成するならばつぎのことが明らかになる。そのファトワーでは、大カーディー(カーディー・アルジャマーア)だけが姦通罪に関する判決を下すことができ、地方のカーディー以外の裁判官(行政官)にはその権限はないと述べる。ハッド(コーランまたはハディースで量刑が定められた身体刑)にかかわる法学理論の特殊性や法学意見の術を習得することは、大イブン・ルシュドが宗教上の処罰と行政上の処罰との違いを明らかにし、統治者に対して、カーディーがハッド刑を効果的に執行するようにしなければシャリーアを支配領域において執行することに基づく彼らの統治の正当性を危うくしかねないことを喚起する手段であったのである。また、ハッド刑の執行という問題についていえば、シーア派の法学者がハッド刑を執行する資格を認められた政治支配者が正当な統治者であるとしたのに対し、大イブン・ルシュドは政治支配者がハッド刑の執行をカーディーに委ねる体制が正当であるとした。

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