- 著者
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山口 洋典
- 出版者
- 国際ボランティア学会
- 雑誌
- ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, pp.5-57, 2009
自分探しという表現は、時に否定的な言説として用いられる。しかし、ありたい自分を探していくということは、根源的に否定されるべきものではない。そこで、本稿では、まず自分探しという概念とボランティア活動がどのように関連づけられてきたのかを、文献のレビューから明らかにした。具体的には、ボランティア活動における自分探しに対する否定的側面を2つ示した。1つは、個人の功利的な願望を達成するためだけに他者を巻き込み、結果として自己満足にとどまるために、現場の問題解決が導かれない場合である。もう1つは、日常生活も一つの現実であるにもかかわらず、非日常の世界に赴くことによって、見たことのない現実に触れることの心地よさに浸り、日常の風景から目が背いていく現実逃避が先行する場合である。その上で、本稿では、中華人民共和国の内蒙古自治区において、エコツアーと称して展開されてきている沙漠緑化プログラムにおいて、参加者とプログラム事務局ならびに現地の方々がどのような関係を構築しているのかを事例として取り扱った。とりわけ、現代を生きる若者たちが、自らを物語るときに、複数の自己、すなわち多元的自己を有していることに視点を当てていった。なお、事例は筆者のエスノグラフィーとして示され、緑化活動の成果に対する関係者間の相互顕彰が、よりよい未来を創造する「フィード・フォワード」の契機を生み出していることに着目した。最後に、日常の風景から逃避せず、自己満足に埋没することのないよう、先駆的なボランティア活動を展開していく上での活動現場と目常生活との関係について、「半返し縫い」モデルを提示した。その際、メタファーを使用して意味創出や意思決定を行う上での課題についても指摘した。