著者
宗田 勝也 山口 洋典
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.75-86, 2019 (Released:2020-07-01)

本研究は難民情報をコミュニティFM放送の番組を通じて「天気予報のように」伝える活動が、難民問題に対する新たな活動主体を形成する契機となった背景とその経過を、社会心理学的観点から整理し、考察したものである。活動は4つの段階で発展した。まず、2004年の番組開始以来、第一筆者は番組制作者としてUNHCRの協力を得て、リスナーに対して難民問題への関心を喚起してきた。その後、2010年にコミュニティラジオの世界的なネットワークAMARCの会議に参加したことが契機となり、難民問題に関心を抱き理解を深めた人々に対してラジオ番組の制作と並行して多彩な活動が展開されるようになった。そして、世界のコミュニティラジオ関係者らの協力を得て、日本で暮らす人々に難民に対する認識が肥えるような番組制作が進められることになった。さらに、10年以上にわたって番組制作を継続することにより、難民問題をテーマに活動する大学生らとの協働もなされるようになり、インターネットを活用して直接当事者とのコミュニケーションの機会が生まれ、結果としてシリア国内の支援者を支援する活動が展開されることになった。そこには、活動の担い手と受け手とを媒介するつなぎ手の立ち居振るまいが鍵となり、その関係性の変容が、実践のコミュニティにまつわるルール、ロール、ツールを変化させていることを確認した。一方、フェイクニュースやヘイトスピーチ等が問題とされる中で、いかにしてメディアにおける過剰な演出を避け、遠くの問題に対する精神的な距離を近づけていくことができるかが実践的かつ理論的な課題であることを示した。
著者
山口 洋典
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.23-30, 2017 (Released:2020-06-01)

本稿では阪神・淡路大震災と東日本大震災の2つの震災を経た日本における宗教とボランティア活動の関係について考察した。日本では、中世におけるキリスト教への弾圧の反動として仏教が、近代においては国民国家の成立の中で家系を基軸とする精神性の維持のために神道が、それぞれ社会システムに組み込まれた。さらに、信教の自由と政教分離原則が定められた憲法のもとでは、例えば「ボランティア元年」とも呼ばれた阪神・淡路大震災の救援・支援活動が象徴するように、宗教団体による信仰に基づいた社会活動よりも、ボランティアの現場におけるリーダーの宗教性が活動を牽引する傾向が見られた。 そこで、国際的には「宗教に基盤をおく組織(faith-based organization)」と呼ばれる形態の社会活動に対し、日本では「宗教と結びつきのある組織(faith-related organization)」という視座が適切という先行研究(白波瀬 2015)をもとに、ボランティア元年から20年を経た日本のボランティア活動に根差す宗教性を検討した。その際、大規模・広域・複合型の災害である東日本大震災のボランティアの研究から、宗教者とは必ずしも聖職者に限るわけではないとした議論(稲場 2011)から提示された「無自覚の宗教性」という視点を参考にした。その結果、アジア圏においては弱いとされたボランタリズムの存在や機能を確認するとともに、秩序的ではなく遊動的な活動の萌芽を捉えることができた。
著者
藪田 里美 山口 洋典
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
no.13, pp.53-67, 2013-02-15
被引用文献数
1

本研究では、地域参加型学習の推進にあたり、地域と学生とのコミュニケーションをデザインする立場に就くコーディネーターに求められる要素を明らかにした。研究対象は京都市中心部で展開された異世代交流のために大学が設置した「でまち家」を拠点とした協働的実践である。2年間にわたるアクションリサーチで、第一筆者が身を置いた場面をエスノグラフィーとして再詳述した。そして、第一筆者の内省から得られた教訓を、第二筆者が携えて現場に参入することで、人と人とを結ぶコーディネーターの行動規範を析出した。さらに、社会での学びを通じて自己形成を図る上では、変化の察知、偶発の担保、緊張感の保持、情熱の喚起の一群が重要であることを示した。また、こうした地域参加型学習の促進にあたって、プログラムを提供する運営側に立つ大学の教職員、また活動の主体となる学生たち、さらには活動対象となる地域の方々とのあいだで良い相互作用がいかに生まれるかにも注意を向けた。よって結論に示した素養群は、教育プログラムの担い手のみに準用されうるものではない。フィールドに積極的に介入し、実践家と研究者の間で価値の調整が伴うアクションリサーチの場面においても通底するものであるというインターローカリティーも提示する研究である。
著者
山口 洋典
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.5-57, 2009

自分探しという表現は、時に否定的な言説として用いられる。しかし、ありたい自分を探していくということは、根源的に否定されるべきものではない。そこで、本稿では、まず自分探しという概念とボランティア活動がどのように関連づけられてきたのかを、文献のレビューから明らかにした。具体的には、ボランティア活動における自分探しに対する否定的側面を2つ示した。1つは、個人の功利的な願望を達成するためだけに他者を巻き込み、結果として自己満足にとどまるために、現場の問題解決が導かれない場合である。もう1つは、日常生活も一つの現実であるにもかかわらず、非日常の世界に赴くことによって、見たことのない現実に触れることの心地よさに浸り、日常の風景から目が背いていく現実逃避が先行する場合である。その上で、本稿では、中華人民共和国の内蒙古自治区において、エコツアーと称して展開されてきている沙漠緑化プログラムにおいて、参加者とプログラム事務局ならびに現地の方々がどのような関係を構築しているのかを事例として取り扱った。とりわけ、現代を生きる若者たちが、自らを物語るときに、複数の自己、すなわち多元的自己を有していることに視点を当てていった。なお、事例は筆者のエスノグラフィーとして示され、緑化活動の成果に対する関係者間の相互顕彰が、よりよい未来を創造する「フィード・フォワード」の契機を生み出していることに着目した。最後に、日常の風景から逃避せず、自己満足に埋没することのないよう、先駆的なボランティア活動を展開していく上での活動現場と目常生活との関係について、「半返し縫い」モデルを提示した。その際、メタファーを使用して意味創出や意思決定を行う上での課題についても指摘した。
著者
松浦 さと子 石川 旺 川上 隆史 川島 隆 林 怡蓉 牧田 幸文 松浦 哲郎 小川 明子 櫻田 和也 津田 正夫 魚住 真司 山口 洋典 日比野 純一 小山 帥人 平塚 千尋 金 京煥 小山 善彦
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

非営利民間放送は現在、コミュニティにおけるコミュニケーションを活性化し、社会的排除の削減に取り組む独立したセクターとして国際的に認知されつつある。しかしながら、このセクターの持続的発展のための法的・財政的・人的な前提条件は、日本においていまだ存在しない。ゆえに我々は、非営利放送局を支えるための体制の可能なモデルを、さまざまな国と地域における成功事例を比較参照することによって明らかにするよう努めた。
著者
小山 健一 山口 洋典
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.17-32, 2010-09

論説(Article)本論文は、民間の劇団による公的事業の展開に着目し、フィールドワークを通じて、文化芸術分野からの地域活性化の方策を取りまとめたものである。特に、第一筆者が自治体からの交付金を得ておこなった演劇公演の運営を経て感じてきた、創造集団における「作家性・芸術性」とアートマネージャーによる「戦略」とのあいだで生じた衝突・軋轢の中から、いくつかの検討を重ねた。実践に対しては、文化政策やアートマネジメントの観点から論考がなされた。そして、(1)公立文化施設での非文化芸術分野の活動への公的資金充当で市民芸術家は育成されるか、(2)アートマネージャーと創造集団の代表者とのあいだにはどのような確執があるかについて接近している。これらを通じて、公による文化施設の活用、すなわち「アウトリーチ」の視点に加えて、民による公への「インリーチ」の観点が重要であることを明らかにした。そして、アウトリーチとインリーチが断続的に展開されること、すなわち反復的交替するとき、公民協働のダイナミックスが導かれることを示し、その状態を担保するために民に求められる視点をまとめた。This fieldwork argues about the difficulty of the community revitalization through a private theatrical company with local government. The difficulty is featured of the gap between artisticity and strategy in the 1st author's practice. From reviewing some references especially in arts management and cultural policy studies, two critical points became clear. (1)How can public fund develop a citizens' art movement in cultural facilities. (2)What kind of discords are generated between Arts manager and representative. mutually as feed-forwarding to create the better future. Finally, this paper proposed the importance of private inreach activity for public outreach program. Furthermore, we had pointed it out about the necessity of repetitive change in project independence which is started from a citizen's action to keep the dynamics on inreach and outreach.