- 著者
-
安達 則嗣
- 出版者
- 一般社団法人 芸術工学会
- 雑誌
- 芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
- 巻号頁・発行日
- vol.55, pp.45-52, 2011
日本の商業アニメーションは、日本を代表するコンテンツとして期待されて久しいが、期待されているほどの成果が得られているとはいえない。そこで、大手アニメーション制作会社である(株)ゴンゾ及び東映アニメーション(株)の事例研究を通じて、アニメーション制作会社とアニメーション産業の現状についてあらためて検討を実施した。その結果、従来からいわれている課題や新たな課題を含めて、いまだに多くの課題が存在していることが把握された。すなわち、(1)海外展開の困難性、(2)作品の均質化・固定化、(3)ビジネスの不透明性、(4)会計基準の不存在、という課題である。従来から期待されているソフト・パワーと経済波及効果に資する「アニメ(Anime)」ブランドというビジョンを実現するためのビジネスデザインには、これらの課題を克服するという観点が求められる。すなわち、質・量ともにストック豊富という強みを活かしながら、低迷する国内外の市場、特に海外市場を拡大して収益機会を得ると同時に、ビジネス上の課題を解消することでアニメーション関連事業者に適正な利益を還元し、業界を活性化させるというものである。具体的には、海外展開を支援する国際見本市や国際共同製作等の制度を充実し、かつ、作品の均質化・固定化を打破する創造的な人材の育成支援策を実施することで、低迷する市場を拡大させる。そして、作品に係る著作権等の帰属やテレビ放映権収入の有無等のビジネス慣行を透明化し、かつ、会計基準を設定することで、アニメーション関連事業者に適正な利益を還元させる。これらを政策として同時並行的に実施することで、期待されつつも低迷する日本の商業アニメーションのさらなる発展を期待したい。