著者
岩井 雪乃
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.7, pp.114-128, 2001-10-31
被引用文献数
2

アフリカの自然保護政策は,人間を排除する「原生自然保護」からの転換期を1980年代にむかえ,「開発か保護か」の二元論を脱却する施策として「住民参加型保全」が試みられている。しかしこの政策は,いまだ生態系の保全を重視する傾向が強く,その法規制と住民生活の実態には大きな乖離が見られる。本稿では,セレンゲティ国立公園に隣接して暮らすイコマの生活実践を事例に,この乖離点を明らかにし折衷の方向性を見出すことを試みる。イコマは政府によって狩猟が規制される以前から,野生動物を自給だけでなく商業的にも利用してきた人びとである。1970年代に規制が強化されると,パトロールに見つかりにくくかつ彼らにとって効率的な猟法を編み出し,現在では専業化と分業化の傾向を強めながら狩猟を継続している。これらの変化の中で,セレンゲティ地域における人と野生動物の距離は過去に比べると「遠く」なっている。しかし数年に一度「ヌー騒動」を経験するイコマは,野生動物との関係を比較的「近く」保っているといえる。本稿に見るイコマの実践は,「科学的」な研究にもとづいて猟法を規制し,利用可能な動物個体数を制限する政策とはかみ合わないが,その一方で,歴史的に利用してきた野生動物という資源を今後も持続的に利用していくことでは政策との接点が見出せるのである。

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