- 著者
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田中 求
- 出版者
- 環境社会学会
- 雑誌
- 環境社会学研究
- 巻号頁・発行日
- no.8, pp.120-135, 2002-10-31
本稿は,1996年に商業伐採を導入したガトカエ高ビチェ村を対象とし,村人が商業伐採を導入した要因をローカル・コモンズの視点から検討し,さらに商業伐採を経て形成された村人の開発観を明らかにするものである。ソロモン諸島では,親族集団による土地所有が法的に認められている。ビチェ村における商業伐採は,慣習的な土地所有代表者を通して伐採契約が結ばれたが,その過程に実際の森林利用者である村人の参加はなされなかった。村人は新たな焼畑用地と収入源の必要性から伐採開始を事後承諾したに過ぎなかったのである。商業伐採の雇用労働には多くの村人が参加した。出来高制の伐採労働は過伐の原因となり,また月曜から金曜日までの終日雇用は,安息日を中心とする生活サイクルを混乱させるものであった。村人はロイヤルティとして1世帯平均4100ソロモン・ドルを得たが,金額の不満と分配の不平等は村人相互に不信感を植え付けた。村人は,商業伐採を経て,「森林資源の共同利用制度,サブシステンスによる食糧自給,平等な利益分配による村の人間関係を維持しつつ,行うべきもの」という開発観を形成し,村人主体の製材販売を試行している。