- 著者
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菊地 直樹
- 出版者
- 環境社会学会
- 雑誌
- 環境社会学研究
- 巻号頁・発行日
- no.9, pp.153-170, 2003-10-31
- 被引用文献数
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3
兵庫県北部の豊岡市では,1971年に野生下で絶滅したコウノトリの野生復帰に向けた取り組みが行われている。人とコウノトリの共生という理念は広範に受け入れられている一方で,稲を踏み荒らす害鳥という声も聞かれ,共生への協力や啓蒙の必要性が主張されている。野生復帰のように自然との共生という枠組みで地域社会のあり方を模索する場合,自然とどうかかわるかが重要な問題となるが,コウノトリと接しながら生活してきた人たちはどのようにかかわってきたのだろうか。コウノトリを聞き取る調査の場で,多くの人が2つの呼び方でコウノトリを語った。ツルとコウノトリである。語りを検証する中で,生活に埋め込まれた存在として語られるコウノトリを「ツル」,学術的な価値を持った保護すべき対象として語られるコウノトリを「コウノトリ」と規定し,語りから人とコウノトリのかかわりのあり方を考察した。「ツル」では,人とコウノトリの間には自然への働きかけの濃淡に基づいた可変的なかかわりがあった。「コウノトリ」ではコウノトリとのかかわりは希少性といった保護概念を軸にしたものに特化した。保護という価値へ関与しない人はコウノトリとのかかわり自体がなくなり,遠い対象と認識されるようになった。「コウノトリ」に限らない人とコウノトリの関係性の再構築に向けて,コウノトリを近くしていた自然への働きかけの意義を現代社会の生活様式の中で問い直すことが野生復帰の課題になる。