著者
宇佐美 毅
出版者
芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
no.51, pp.119-125, 2009-11-01

本研究はコマ撮り(ストップモーション)アニメーションにおける「メタモルフォシス」(形態変化)表現の可能性を、立体の「奥行き」を「時間」におきかえる技法の分析、実験及び作品制作を通じて検討することを目的としている。本稿では「立体断面の連続写真を撮影していく、コマ撮りアニメーションの制作技法」として「ストラタ・カット(Strata-cut)」を定義した。その制作の原理とメタモルフォシスの表現は対象を動かしながらコマ撮りする他の技法と明確に異なり、「滑らかさ」と「偶然性」をアニメーションに反映する点で特に優れている。しかしながら、ストラタ・カットの動きの制御は非常に難しく、他の制御の容易なアニメーション技法の発展の影に埋もれてしまい、顧みられることはほとんどなかった。本研究では、従来使われてこなかった素材と技法の実験、その成果として作品制作を行い、技法としての「汎用性」と「動きの制御のしやすさ」を改善することで、ストラタ・カットを発展させることを目的としている。第一段階としてアニメーションの動きを制御しやすい素材を探求する実験を行い、さらにその成果としてホットメルト接着剤とパラフィン(ろう)を用いた作品『Gluebe』を制作した。制作を通じて、ストラタ・カットの独特の表現の魅力を再発見でき、造形時にモチーフのトレース、カッターや彫刻刀を用いた細部の表現が可能になった。逆に人が歩くなど一般的なモチーフの動きの表現は尚も不向きだった。第二段階としてストラタ・カットを他技法に融合させることで一般的なモチーフの動きの表現を試みた。習作『かたち連想』では、前作の欠点を改善するため一旦断面アニメーション技法で生成したアニメーションにコンピュータ上で手書きアニメーションを重ねた。結果、具象的なモチーフの動きの表現、それに伴うストーリーの展開が可能になった反面、質感の違いによる両技法の長所が薄れてしまうことが問題として残った。そこでストラタ・カットによって得られたアニメーションをプリントアウトし切り抜き、カットアウト(切り絵)アニメーションの中に配置する試みを行い、その成果として作品『さよなら△またきて□』を制作した。結果、さらに自由なストーリーの表現が可能になり、強い没入感を与えることができたが、その反面素材本来の質感と立体感が薄れ、また労力の面で汎用性に欠ける問題が残った。

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