著者
尹 性哲
出版者
芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
no.56, pp.85-92, 2011-10-01

本研究は、韓国漫画史における「海賊版日本漫画」を対象として、海賊版日本漫画が韓国の漫画文化に与えた影響と日本から韓国へいかに漫画表現方法が移植されたかを明らかにし、海賊版漫画の存在にそのような文脈を与えることで漫画分野における著作権の在り方に新たな視点を提示することを最終的目的としている。ここで本研究が対象とする「海賊版日本漫画」の定義とは、著作権法に基づきながら、韓国初の海賊版日本漫画が出版された1952年から現在まで、日本漫画を無断で模倣・模作・翻案・複製し、韓国で出版された漫画とインターネットを通じて流通されているスキャン漫画を全て包括する。その上で、不法無断複製物の「海賊版日本漫画」に対して、「文化伝達」という新たな側面からアプローチすることが従来の研究や報告と異なる本研究の特徴である。既に1930年代の日本漫画にW・ディズニーの「ミッキーマウス」などのキャラクターを無断使用した海賊版が存在し、「ミッキーの書式」を採用することで田河水泡の「のらくろ」などのキャラクターが成立したことが指摘されている。また、戦後、手塚治虫が「ジャングル大帝」などで画面構成やストーリーをディズニーの「バンビ」から借用したことは広く知られるところである。しかしそのことは日本漫画の独自性を否定するものでなく、むしろその成立の一つのきっかけに「海賊版」や現在なら知的所有権の侵害とみなされかねない模倣作品が重要な役割を果たしていたことをふまえた時、筆者は韓国漫画史が独自性を模索する中で「日本漫画海賊版」がいかに機能したかという視点が不可欠である、と考える。本論文では、そのための基礎的な作業として、歴史的な背景からの影響と関係性に着目し、日本統治時代から現在までの韓国漫画史について概観する。次に、韓国の漫画関連書籍、漫画関連機関の報告書、著作権関連書籍などの文献を参照すると共に、韓国の漫画家、漫画研究者、そして漫画関連機関を訪問し、資料収集と聞き取り調査を行うことで文献資料を補った。そこから韓国漫画は漫画史の半分以上の約60年間、統治時代の日本と軍部政権から統制されたことと、軍部政権の統制によって海賊版日本漫画の出版・氾濫現象が起きたことを確認した。そして、(1)日本統治時代から現在までの日本と韓国の歴史的関係、(2)韓国内の歴史的事件と漫画史の関係について概観し、海賊版日本漫画が登場した要因や歴史的変遷について考察した。考察の結果、35年間の日本統治時代は日本漫画を受容しやすい環境を形成し、韓国政府の日本大衆文化に対する排斥行為と軍部政権による漫画に対する弾圧は、日本漫画が海賊版として登場できる環境を作り出したことが明らかになった。さらにまた海賊版日本漫画の出版によって韓国漫画の出版産業が発展したことと漫画出版ブームを呼び起こしたこと、低級文化と認識された漫画を大衆文化へ転換させ、消費パターンを「借りて読む漫画」から「買って読む漫画」へ転換させたことなど、海賊版日本漫画が韓国漫画発展に与えた影響についても明らかとなった。
著者
吉田 博則 脇山 真治
出版者
芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
no.54, pp.121-128, 2010-11-10

TV-CMでは、その導入部分でストーリー展開の間に、商品ラベルデザインに関連する映像が挿入されることが多い。商品ラベルデザインは、生活者が他の商品と見分ける上で重要な要素であり、店頭で並んだときの商品の顔に当たる部分である。本研究は、TV-CMの商品ラベルデザインの映像において、商品想起を高める表現手法の要因を明らかにすることを目的とする。そのために第一段階として、既存のTV-CMにおける商品ラベルデザインに関連する表現手法を考察した。その結果、商品想起を高める表現手法には、次のような4つのタイプの傾向がみられた。(1)商品ラベル部分を実写で紹介する。(2)商品ラベルから連想するイメージを合成エフェクトで強調する。(3)商品名ロゴタイプをタイトル文字としてレイアウトする。(4)商品デザインの一部を登場人物の日常空間に展開する。次に第二段階として、それらの中で最も基本的な(1)商品ラベル部分を実写で紹介する映像、つまり商品ラベル映像の効果について、認知心理学に基づく記憶実験を実施した。本実験では、既存のTV-CM映像ではなく、要素を簡略化した商品ラベル映像を3タイプ用意した。動きが全くない(1)フィックスタイプ、ラベル部分が序々に大写しになる(2)ズームインタイプ、カメラを振り込んで正面にラベルを捉える(3)パンニングタイプである。無意味なカタカナ2文字がデザインされた商品ラベル映像にこれらの表現手法を割り振り、どの表現が商品想起に優位であるか再認実験を行なった。その結果、パンニングは、フィックスよりも、商品想起において劣っていた。パンニングは被験者に対して左右に動くため、商品名の識別に支障をきたしたと考えられる。一方、ズームインは商品ラベル部分が序々に迫ってくる前後の動きである。これは商品ラベルを強調する表現手法であり、フィックスより有効であると予測したが、その逆の傾向であった。商品想起を基準に表現手法を評価すると、商品ラベル映像においては、最もシンプルなフィックスが効果的であることがわかった。
著者
佐々木 宏幸 齊木 崇人
出版者
芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
no.53, pp.72-79, 2010-09-30

本研究は、1990年代の異なる二つの時点において、ニューアーバニズム理論の目的と基本原則を明文化した文書であるアワニー原則(1991年)とニューアーバニズム憲章(1996年)の比較・考察を通して、ニューアーバニズム理論の特徴と変容を明らかにすることを目的とする。本研究では、まず、ニューアーバニズムの誕生から現在に至るまでの発展の経緯を振り返り、アワニー原則とニューアーバニズム憲章のニューアーバニズム理論における位置づけを確認した。その上で両者の目的と基本原則を比較することによりその共通点と相違点を明確にし、ニューアーバニズム理論の特徴と変容を明らかにすることを試みた。両者の比較の結果、アワニー原則とニューアーバニズム憲章は、歩いて暮らせるコンパクトでミックストユースのネイバフッドを公共交通機関でネットワークすることにより、自然と共存する環境にやさしい都市の創造を目指している点において共通していることが確認された。一方、アワニー原則の5年後に策定されたニューアーバニズム憲章では、社会・経済・文化・政治・環境・空間などの総合的な扱い、都市と自然環境とのバランスある共存、地域から建築までのあらゆるスケールへの対応、公共空間の重視、建物の形態コントロールを重視する開発規定の有用性の認識などの点において、アワニー原則より包括的かつ多角的に進化していることが明らかとなった。これらの分析により、本研究ではニューアーバニズム理論が、総合的なアプローチ、学際的推進団体の存在、多様な居住環境の肯定と既存の都市の重視、公共空間創造の重視、理論と実践手法の一体的取り組みによるプランニングの変革などの点において、多くの意義を持つ都市デザイン・都市計画理論であると結論づけた。そのうえで今後は、ニューアーバニズム理論の実現のための道具としてスマートコードの研究、そして実際に策定されたフォーム・ベースト・コードの検証を通したその有用性の研究を行い、ニューアーバニズムの理論とその実践手法の体系的な探究を行う必要性を認識した。
著者
宇佐美 毅
出版者
芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
no.51, pp.119-125, 2009-11-01

本研究はコマ撮り(ストップモーション)アニメーションにおける「メタモルフォシス」(形態変化)表現の可能性を、立体の「奥行き」を「時間」におきかえる技法の分析、実験及び作品制作を通じて検討することを目的としている。本稿では「立体断面の連続写真を撮影していく、コマ撮りアニメーションの制作技法」として「ストラタ・カット(Strata-cut)」を定義した。その制作の原理とメタモルフォシスの表現は対象を動かしながらコマ撮りする他の技法と明確に異なり、「滑らかさ」と「偶然性」をアニメーションに反映する点で特に優れている。しかしながら、ストラタ・カットの動きの制御は非常に難しく、他の制御の容易なアニメーション技法の発展の影に埋もれてしまい、顧みられることはほとんどなかった。本研究では、従来使われてこなかった素材と技法の実験、その成果として作品制作を行い、技法としての「汎用性」と「動きの制御のしやすさ」を改善することで、ストラタ・カットを発展させることを目的としている。第一段階としてアニメーションの動きを制御しやすい素材を探求する実験を行い、さらにその成果としてホットメルト接着剤とパラフィン(ろう)を用いた作品『Gluebe』を制作した。制作を通じて、ストラタ・カットの独特の表現の魅力を再発見でき、造形時にモチーフのトレース、カッターや彫刻刀を用いた細部の表現が可能になった。逆に人が歩くなど一般的なモチーフの動きの表現は尚も不向きだった。第二段階としてストラタ・カットを他技法に融合させることで一般的なモチーフの動きの表現を試みた。習作『かたち連想』では、前作の欠点を改善するため一旦断面アニメーション技法で生成したアニメーションにコンピュータ上で手書きアニメーションを重ねた。結果、具象的なモチーフの動きの表現、それに伴うストーリーの展開が可能になった反面、質感の違いによる両技法の長所が薄れてしまうことが問題として残った。そこでストラタ・カットによって得られたアニメーションをプリントアウトし切り抜き、カットアウト(切り絵)アニメーションの中に配置する試みを行い、その成果として作品『さよなら△またきて□』を制作した。結果、さらに自由なストーリーの表現が可能になり、強い没入感を与えることができたが、その反面素材本来の質感と立体感が薄れ、また労力の面で汎用性に欠ける問題が残った。
著者
吉田 博則 脇山 真治
出版者
芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
no.54, pp.129-136, 2010-11-10

TV-CMを構成するショットは、大きく2つに分けられる。ストーリー要素と商品関連要素である。ストーリー要素には、状況設定、ドラマ展開、登場人物、シナリオ、会話、ナレーション、音楽などがある。商品関連要素には、商品の外観、商品ラベル部分、商品の中身、商品機能イメージ、商品の使用場面、商品効果表現、商品ディスプレイショット、商品名台詞ナレーション、商品名音楽などがある。本研究の目的は、TV-CMのストーリー要素が、商品好感度に与える影響を検証することにある。本研究において、ストーリー要素を構成するショットを、ストーリー関連ショットと呼ぶ。本研究の実験では既存のTV-CMコンテンツは使わず、ストーリー関連ショットと商品外観映像をつないだ短い実験映像を制作して用いた。(1)人物から商品へ。(2)食事から商品へ。(3)動物から商品へ。いずれも商品には、無意味なカタカナ2文字の商品名が記されている。ストーリー関連ショット(0.5秒)と商品外観映像(1秒)がオーバーラップ(1秒)によってつながっている。オーバーラップ(略称O.L)とは、前者から後者へ画面が全体で変化していく場面転換のことである。[figure]前者の人物群(現場監督、ビジネスマン、ジョガー)、食事群(カレー、ハンバーガー、サラダ)、動物群(犬、猫、アヒル)は、いずれもTV-CMに登場する機会が多い構成要素である。これらの材料をもとに、認知心理学に基づく嗜好テストを実施した。このようなストーリー関連ショットに対する印象が、後続する商品外観映像の商品好感度に影響するのであろうか。そもそもこの両者に因果関係があるのだろうか。商品好感度を高める要因について、実験する目的や比較する要素を限定て一定のし指針をだすことができればと考えた。