- 著者
-
浜井 浩一
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- no.36, pp.76-106, 2011-10-31
本稿の課題は,人口動態の変化,つまり少子・高齢化によって犯罪動向がどのように変化し,それに刑事司法制度がどのように対応しているのかを分析した上で,今後,少子・高齢化が更に進行する可能性の高い日本において,刑罰運用を含めた持続可能な刑事政策はいかにあるべきかを検討することにある.結論から言うと,少子・高齢化は,犯罪に対して最も活発な若者が減少し,犯罪に対して最も非活発な高齢者が増加するため,全体としては犯罪減少社会を作り出す.事実,罪種によって多少傾向の違いはあるが,窃盗においても,殺人においても犯罪は若者の減少と共に減少している.その一方で,年齢による犯罪率の変化を示す年齢層別検挙人員を人口比で示した犯罪曲線を詳細に分析してみると,そこには1990年代後半から微妙な変化が認められる.それは,30歳以降において加齢による犯罪の減少傾向が消失したことである.つまり,日本では,30歳を過ぎると犯罪から足を洗えなくなってきているということである.犯罪の背景要因には生活苦や社会的孤立が存在する.少子・高齢化は,消費を衰えさせ経済全体を衰弱させる.1990年代後半における経済不況の原因の一つは少子・高齢化である.つまり,少子・高齢化は,全体としては犯罪を減少させるが,不況を生み出すことで中高年の立ち直りを阻害する一面があるのである.日本の刑事司法は応報を基本とし,累犯加重を機械的に適用する傾向が強く,判決までの段階では犯罪者を更生させるという意識は乏しい.その結果として,万引きや無銭飲食などの高齢犯罪者が増加する中,彼らの多くが,軽微な犯罪の繰り返しで実刑となり,受刑者の高齢化は深刻な状況となっている.少子・高齢化社会において持続可能な刑事政策を実現させるために必要なこと,それは,これまでの「応報型司法」を改め,犯罪者の更生を可能とする「問題解決型司法」を目指すことである.そのために,同じ大陸系刑法の伝統を持ち,日本に次いで人口の高齢化が深刻なイタリアがいかに高齢犯罪者の増加を防止しているのかを参考に刑事司法改革の方向性について考える.