- 著者
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井上 優
- 出版者
- 日本橋学館大学
- 雑誌
- 日本橋学研究 (ISSN:18829147)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, no.1, pp.21-31, 2008-03-31
映画監督市川崑(1915-2008)が1956年に発表した『日本橋』は、現在では彼のキャリアの中でほとんど省みられなくなっている。この映画は、泉鏡花の原作小説(1914)および作者自身の脚色による戯曲版(1917)の中の、リアリズムを拒否したバロック的な装飾性を有した文体を、リアリズム的に処理したことに問題があるからという指摘がある。しかし、演劇批評家の大笹吉雄によると、鏡花自身の脚色した戯曲版も、それを上演した新派の流儀に適合させるべく、原作小説の世界をゆがめたものであるという。市川の映画版は、その観点からすると、新派の舞台が付け加えた要素を排して、彼独自のやり方で原作に再アプローチした作品と言うことができる。しかし、現存しない溝口健二版の『日本橋』(1929)の評価と比較してみると、やはりこの映画が成功するには、むしろ、新派的な感性を喚起するべき工夫が必要だったというこということになる。