- 著者
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鎮目 雅人
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社会経済史学 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.77, no.1, pp.25-47, 2011
両大戦間期日本のマクロ経済政策に関する研究は,従来から蓄積が厚く,さらに1990年代以降の日本におけるデフレーションと経済成長停滞を受けて,現代にも通じる政策的含意を持った歴史的経験として改めて脚光を浴びることとなり,近年における理論・計量経済学の分野における知見を採り入れる試みもなされるようになってきている。本稿では,最近の経済理論・計量分析の知見も取り入れつつ,商品先物市場の価格データならびに業界誌に掲載された当時の市場関係者の見方から,両大戦間期日本の市場参加者の物価変動に関する予想形成の定式化を試みる。分析の結果,市場参加者は,将来の価格に関する予想形成において,主として内外価格差の動きに着目していた一方,国内金融・財政政策の影響については,これが先行きの物価に大きな影響を与えるとは認識していなかったことが示される。このことは,市場参加者が,閉鎖経済ないし変動相場制下の開放経済ではなく,固定為替相場制下の開放小国経済を前提に,意思決定を行っていたことを示唆している。