著者
柴田 義貞
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.221-224, 2012-09-25

セシウムはカリウムと同族のアルカリ金属であり,両者の化学的・物理的性質はよく似ており,人体には約4,000Bqの放射性カリウムが常在している.2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震と随伴巨大津波によって,東京電力福島第一原子力発電所では全電源喪失の事態が発生し,運転中の原発3基では炉心溶融が起こり,運転休止中の1基でも冷却保管されていた大量の使用済燃料棒が破損し,1986年4月26日に旧ソ連で発生したチェルノブイリ原発事故による放出量の約10%の放射性物質が放出され,福島県をはじめとする広範囲の地域が放射性物質によって汚染されることとなった. チェルノブイリ原発事故で多数の小児甲状腺がん発生の原因となった放射性ヨウ素への被ばくは,政府が速やかに行った汚染原乳の出荷制限措置によって最小限に抑えられ,数か月後には被ばくの虞もなくなった.一方,セシウム137への被ばくについては,その半減期が30年と長期であるため,多数の人が将来の健康影響を懸念している. チェルノブイリ原発事故によるセシウム137の健康影響はこれまでのところ認められていないというのが大多数の研究者の考えであるが,福島原発事故後の日本ではスウェーデンのマーチン・トンデル(Martin Tondel)博士やベラルーシのユーリ・バンダジェフスキー(Yuri Bandazhesky)博士などごく一部の研究者の研究が過大に評価されており,インターネットや講演会などを通じての広報活動によって,一般住民に無視しえない影響を与えている. 本報告では,彼らの研究を統計的因果推論と現代疫学の視点から検討する.

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