著者
柴田 義貞 本田 純久 中根 允文
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

チェルノブイリ事故が被災家族の子供に及ぼしている精神身体的影響の大きさを明らかにすることを研究目的とする。チェルノブイリ30km圏内からキエフ市に避難してきた家族の子供約4,400人のうち、1,458人(男678人,女780人)を対象に、ウクライナ放射線医学研究所と共同で、2000年および2002年の定期検診時にGoldbergのGeneral Health Questionnaire12項目質問紙(GHQ-12)と不安-抑うつ尺度を用いた精神的健康状態の調査を行い、以下の結果を得た。1.対象者の平均(標準偏差)年齢は男15.7(1.3)歳、女15.7(1.2)歳で、ほぼ全員に診断がつけられており、扁平足および脊柱彎曲異常が41.6%ともっとも多く、胃および十二指腸の疾患、自律神経失調症および心筋症も20%を超えていた。自律神経失調症は、神経症、非精神病性精神障害、心筋症、胃および十二指腸の疾患、胆嚢・胆管の障害、偏平足および脊柱彎曲異常と有意な関連を示していた。2.Goldbergの不安-抑うつ尺度によって「不安あり」あるいは「抑うつあり」とされた者は、それぞれ36.1%、35.8%であった。また、GHQ-12の4項目以上に反応した者は男5.8%、女10.0%であった。3.神経症あるいは自律神経失調症のある者はない者に比し、「不安あり」「抑うつあり」とされた者、GHQ-12の4項目以上に反応した者の割合が有意に大きかった。4.Goldbergの不安-抑うつ尺度はGHQ-12と有意に関連していたが、これら3種類の尺度と疾患の有無との関連に関するロジスティック回帰分析は、それぞれが対象者の異なる側面を描き出すことの蓋然性が高いことを示しており、両者の併用がリスク集団のスクリーニングに有用であることが示唆された。
著者
柴田 義貞
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.35-43, 2016 (Released:2016-09-09)
参考文献数
9
被引用文献数
1

Health effects of radiation exposure is not easy for laymen/laywomen to understand because of numerous and complicated technical terms. First, basic notions on radiation including deterministic effects and stochastic effects are introduced. Second, the long-term cohort study on radiation effects to the atomic bomb survivors' health is introduced. Third, evaluation of health effects of radiation exposure is discussed with an illustration of misuse of linear non-threshold model. Finally, we touch briefly the fundamental issues in statistics regarding the interpretation of probability, with an introduction of the journal which recently declared to ban p-value.
著者
齋藤 寛 柴田 義貞 高村 昇 渡辺 孝男 中野 篤浩 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故において、事故時に乳幼児であった世代から甲状腺がんが多発したことはよく知られているが、この詳細なメカニズムについてはまだ明らかになっていない。一方で、事故直後に放射能の除染を目的として鉛をはじめとする重金属類が空中から散布されたことが明らかになっており、すでに鉛の汚染状況についての地図も作成されている。しかしながら、これによる住民の健康影響については、これまで全く調査が行われていない。近年、in vitroにおいて、カドミウムやニッケルといった金属に曝露したcell lineにおける遺伝子不安定性が報告されており、放射線被ばくと同様、金属曝露も遺伝子不安定性の原因となることが示唆されてきている。そのため我々は、主にウクライナ放射線医学研究所との共同研究で、チェルノブイリ原発事故のもう一つの側面として、同地区における金属汚染の実態を明らかにし、さらにこれによる染色体レベルでの変異解明を目的としている。本年度は、昨年度までの解析結果に加えて毛髪を用いた微量金属の再評価を行ったが、毛髪と金属汚染レベルでは相関関係はみられなかった。その一方で血液中の微量元素については有意に上昇しているものがみられ、今後さらなる評価が必要であると考えられた。7月にはこれまでの研究成果の総括を行うために、研究代表者、分担者に加えてウクライナの海外共同研究者、さらに国内や中国、ベラルーシ共和国などからも専門家を招聘しての国際会議を開催し、グローバルな視点からの金属汚染の現状についての報告と今後の取り組みについて協議した。
著者
柴田 義貞 山下 俊一 前田 茂人 本田 純久
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

低線量率放射線への長期被曝が人体に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、チェルノブイリ周辺地域住民における乳がん、甲状腺がん発生の実態について疫学調査を行った。1.乳がん乳がんの危険因子については、チェルノブイリ原発所在地のプリピャチ市を含む、チェルノブイリ30-km圏内からキエフ市に避難してきた、事故当時15-45歳の女性1997人(I群)と、事故以前からキエフ市に在住していた同年齢の女性1931人(II群)に対して、質問紙を用いて、月経・出産に関する因子、喫煙および飲酒状況、有病状況等についてウクライナ放射線医学究所と共同で調査し(I群は2003年、II群は2004年)、以下の結果を得た。I群はII群に比して、既婚の割合は小さく、離婚および死別の割合ならびに出産回数が有意に多く、閉経年齢も有意に高かった。乳がんの発生率に関しては、1982年から2001年までの20年間を4期間に分けて、ベラルーシ共和国における乳がんの年齢階級別発生率について、州別の期間間の比較および期間別の州間の比較を行った。乳がんの発生率は4期間を通じてMinsk市がほぼ全年齢階級でもっとも高く、その他の州の間には大差はなかった。また、それぞれの州では、ほぼ全年齢階級で乳がん発生率が期間を追って増加する傾向が認められた。現時点では、乳がん発生率に関して、放射線被曝の影響は認められなかった。2.甲状腺がん特定被曝集団の長期追跡調査を行い、国際甲状腺組織登録バンクの管理運営に参画し、収集した標本を基に各種免疫組織化学的解析および甲状腺がん関連遺伝子の解析を行い、次のような成果を得た。(1)ミトコンドリア遺伝子(mtDNA)の部分欠失や巨大欠損の詳細なプロファイル解析を行い、放射線被曝線量との相関関係を示唆するデータを得た。(2)新しいret/PTC遺伝子異常の再配列を発見した。(3)小児甲状腺がん組織を用いて分子生物学的解析を行い、BRAF異常に対する放射線の影響が否定的であることを示した。
著者
高村 昇 松田 尚樹 林田 直美 中島 正洋 折田 真紀子 柴田 義貞
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故では、放射性ヨウ素の内部被ばくによる甲状腺がんの増加が認められたが、それ以外の疾患については増加が認められていない。一方2011年の福島第一原子力発電所事故後、初期の食品管理によって内部被ばくの低減化が図られたものの、住民の間には放射性ヨウ素や放射性セシウムの内部被ばくによる健康影響への懸念が広がった。今後甲状腺がんのみならず、甲状腺の良性疾患に対する不安が広がることも予想される。そこで本研究では、チェルノブイリにおける放射性ヨウ素の内部被ばくによる甲状腺良性疾患の増加があるかどうかについて、疫学研究を行った。
著者
ログノビッチ タチアナ 中島 正洋 サエンコ ウラジミール 柴田 義貞
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

我々は、チェルノブイリ原発汚染地域であるベラルーシやウクライナの非常に悪性の高い小児甲状腺癌患者(若年齢で被ばくし、1990年から1998年10月の間に手術施行した症例)からパラフィン包埋組織、(入手可能な場合)凍結組織、血液サンプルを収集し、分子疫学研究を展開してきた。RNA-次世代シークエンス技術を用いて、これらのサンプルにおける遺伝子異常の有無を検索したところ、ベラルーシからの一症例で新しいタイプのRET遺伝子再配列異常(TBL1XR1/RETと命名)を見出した。さらに、我々のヒト培養甲状腺細胞を用いた実験においても、放射線照射によって同じRET遺伝子再配列異常が誘導された。
著者
山下 俊一 FOFANOVA O ASTAKHOVA LN DIMETCHIK EP 柴田 義貞 星 正治 難波 裕幸 伊東 正博 KOTOVA AL ASHATAKNOVA エルエヌ DEMETCHIK EP ASHTAKNOVA L DEMETCHIK E.
出版者
長崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

旧ソ連邦の崩壊後、1994年から3年間ベラル-シを中心に学術共同研究「小児甲状腺がん特別調査」を行ってきた。すでに関係機関や保健省、ミンスク医科大学、ゴメリ医科大学、ゴメリ診断センターとは良好な協力関係を構築し、放射能高汚染地区の小児検診活動が軌道に乗っている。昨年出版したNagasaki Symposium; Radiation and Human Health(Elsevier,1996)ではベラル-シ以外ウクライナ、ロシア、カザフ等の旧ソ連邦の放射線被曝者の実態を明らかにしてきた。1994年〜1995年の一期目はベラル-シ、ゴメリ州を中心に小児甲状腺検診プログラムの疫学調査の基盤整備を行い、共通の診断基準、統一されたプロトコールを作成し甲状腺疾患の確定診断を行った。特にエコー下吸引針生検(FNAB)を現地に導入し、細胞診を確立することで最終診断の上手術の適応を判定可能となった。更にゴメリ州で発見された小児甲状腺がん患者がミンスク甲状腺がんセンターで手術されることから、連携をとり、組織診断の確認や患者の追跡調査を行った(Thyroid 5; 153-154,1995,Thyroid 5; 365-368,1995,Int.J.Cancer 65; 29-33,1996)。チェルノブイリ周辺では慢性ヨード不足のため地方性甲状腺腫の診断の為、尿中ヨードの測定装置を開発し、現地での測定に役立て一定の成果を得た。すなわちヨード不足と甲状腺腫大の関係を明らかにした(Clin Chem 414; 581-585,1995)。一方、ヒト甲状腺発癌の分子機構や病態生理の解明のためには種々の基礎実験を行い、甲状腺癌組織におけるPTHrPの異常発現と悪性憎悪の関連性を明らかにした(J Pathol 175; 227-236,1995)。特に放射線誘発甲状腺癌の研究では細胞内情報伝達系の特徴から、細胞周期停止とアポトーシスの解離現象を解析した(Cancer Res 55; 2075-2080,1995)。その他TSH受容体の遺伝子異常(J Endocrinol Invest 18; 283-296,1995)、RET遺伝子異常(Endocrine J 42; 245-250,1995)などについても解析を行った。1995年〜1996年の二期目はベラル-シの小児甲状腺癌の激増がチェルノブイリの原発事故によるとする各国際機関発表を基本に被曝線量の再評価を試みた。しかし、ベラル-シの多くのデータは当時のソ連邦特にモスクワ放射線生物研究所を中心に測定、管理されており、窓口交渉やデータの共有化等で未解決の問題を残している。更にチェルノブイリ原発事故の対応はセミパラチンスクにおける467回の核実験の対策マニュアルに基づいて行われたことが明らかとなり、カザフを訪問し健康被害の実態調査(1958-1990年)について検討を加えた。一方、甲状腺癌の基礎研究においてはいくつかの新知見が得られている。1996年-1997年の三年目は、チェルノブイリ原発事故後激増する小児甲状腺がんの細胞診活動を継続し、30,000人の小児検診のうち60名近いがんを発見した。同時にほかの甲状腺疾患の診断が可能であった(Acta Cytol in press 1997)。チェルノブイリ以外に旧ソ連邦では467回の核実験を行ったセミパラチンスクが注目されるが、更に全土で100回以上の平和利用目的の原爆資料が判明した。甲状腺癌細胞を用いた基礎実験ではp53遺伝子の機能解析を温度感受性変異p53ベクター導入株を用いて行った。その結果、放射線照射における細胞周期停止とアポトーシスの解離現象にp53以外の因子が関与することが判明した。更にDNA二重鎖切断の再修復にp53が重要な役割を担っていることが明らかにされret再配列との関連性等が示唆された(Oncogene in press 1997)。TSH受容体遺伝子や脱感作の研究も進展している。しかしながら、放射線誘発甲状腺含発症の分子機構は未だ十分解明されておらず更なる研究が必要である。貴重なチェルノブイリ原発事故周辺の小児甲状腺がん組織の散逸やデータの損失を未然に防ぐためにも国際協調の下、Chernobyl Thyroid Tissue BankやPatient Network Systemなどの体制づくりも必要である。
著者
熊谷 敦史 メイルマノフ セリック 大津留 晶 高村 昇 柴田 義貞 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

現地で得られたセミパラチンスク周辺地域での検診結果情報をもとに、検診結果と精密検査・治療の現状把握を行った。平成22年には、甲状腺結節が認められた場合に治療にあたるセメイ州立がんセンターから病理医を招へいし、同時に同センターで切除された甲状腺腫瘍標本を用いて、病理組織解析、53BP1蛋白の発現解析を行った。平成23年には、セメイ州立がんセンターから病理医、診断センターからデータベース担当者を招へいし、標本追加して病理解析による放射線発がん影響の解析を進め、甲状腺精密検査結果データと、疫学センターからのカザフスタン全土の癌疫学データを合わせ旧セミパラチンスク核実験場周辺地域の発がん傾向分析をまとめる予定であった。しかしながら、平成23年3月11日に発生した東日本大震災に引き続く東京電力福島第1原子力発電所事故のため、研究代表者ならびにメイルマノフ・セリックをのぞく研究分担者は全て被ばく医療専門家として福島県に繰り返し派遣され支援にあたってきたため、研究期間内に予定された研究完遂が困難となった。
著者
柴田 義貞
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.221-224, 2012-09-25

セシウムはカリウムと同族のアルカリ金属であり,両者の化学的・物理的性質はよく似ており,人体には約4,000Bqの放射性カリウムが常在している.2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震と随伴巨大津波によって,東京電力福島第一原子力発電所では全電源喪失の事態が発生し,運転中の原発3基では炉心溶融が起こり,運転休止中の1基でも冷却保管されていた大量の使用済燃料棒が破損し,1986年4月26日に旧ソ連で発生したチェルノブイリ原発事故による放出量の約10%の放射性物質が放出され,福島県をはじめとする広範囲の地域が放射性物質によって汚染されることとなった. チェルノブイリ原発事故で多数の小児甲状腺がん発生の原因となった放射性ヨウ素への被ばくは,政府が速やかに行った汚染原乳の出荷制限措置によって最小限に抑えられ,数か月後には被ばくの虞もなくなった.一方,セシウム137への被ばくについては,その半減期が30年と長期であるため,多数の人が将来の健康影響を懸念している. チェルノブイリ原発事故によるセシウム137の健康影響はこれまでのところ認められていないというのが大多数の研究者の考えであるが,福島原発事故後の日本ではスウェーデンのマーチン・トンデル(Martin Tondel)博士やベラルーシのユーリ・バンダジェフスキー(Yuri Bandazhesky)博士などごく一部の研究者の研究が過大に評価されており,インターネットや講演会などを通じての広報活動によって,一般住民に無視しえない影響を与えている. 本報告では,彼らの研究を統計的因果推論と現代疫学の視点から検討する.
著者
三根 真理子 本田 純久 柴田 義貞 三根 真理子
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

長崎市在住の原爆被爆者1237人を対象に、被爆時の状況や被爆体験に関する面接聞き取り調査を1997年に行なった。本研究では、被爆から50年以上が経過した現在においてもなお残る「こころの傷」の全体像を把握するために、同調査から得られた口述記録をテキスト型データ解析の方法を用いて分析を行なった。解析対象は1237人中、性別、年齢、GHQ-30、被爆距離の項目がすべて判明している928人とした。まず、テキスト化された口述記録を"要素"(例えば、「原爆」、「ピカッ」、「死体」、「やけど」、「後悔」)に分解した。同じ意味を持つひらがな、カタカナ、漢字での表記はまとめ、関係のない単語は除外した。方言や表現の違いは同じ"要素"としてまとめた。例えば「光」、「光って」、「ピカドン」、「ピカッ」、「ピカー」は「光」という"要素"とした。また「燃えよった」、「燃えよる」、「燃えてる」は「燃える」という"要素"とした。最も出現頻度が高かった"要素"は「原爆」で口述記録の90%を占めていた。ついで「死んだ」が73.5%、「母」が67%であった。次に身体的なもの(火傷、怪我、病気など)、悲惨な状況をあらわす景色(ガラス、爆風、火事など)、家族、こころ、混乱状態、その他にグループ化し、被爆体験を構成する"概念"を抽出した。被爆体験に関する"要素"や"概念"が各対象者の口述記録に現れる頻度と、要素間あるいは概念間の相関関係を調べた。さらに性別や被爆時の年齢、被爆距離といった対象者の属性により"要素"の出現頻度を比較した。また1997年の聞き取りの際に行なったGHQ(General Health Questionnaire)-30項目質問紙調査の結果と、被爆体験に関する"要素"の出現頻度との関連を調べることで、精神的健康状態との関連についても検討を行なった。
著者
熊谷 敦史 Vladimir A. Saenko 柴田 義貞 大津留 晶 伊東 正博
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.297-300, 2004-09

甲状腺癌の約80%以上を占める主要な病理組織型である甲状腺乳頭癌(PTCs)には,特異的な遺伝子異常が存在する. 特に,チェルノブイリ原子力発電所事故後の小児PTCsにおける高頻度のRet/PTC遺伝子再配列異常が報告されている. 一方,成人PTCsにおいては,2003年BRAF遺伝子のエクソン15コドン599に限局した活性型点突然変異(T1796A,V599E)がその3〜5割に認められ,PTCsの発症に関与していることが報告された. その後シークエンス解析等の結果,BRAF遺伝子のヌクレオチド番号・コドン番号の表記が訂正され,これに従いHot spotはコドン600(T1799A,V600E)に訂正された. BRAF遺伝子はRAS-RAF-MAPK経路(MAPKカスケード)を構成するRAF蛋白のアイソフォームのひとつであるBRAF蛋白をコードする遺伝子であり,BRAF蛋白はセリン・スレオニンキナーゼとして細胞内情報伝達因子としての活性を持っている. BRAF蛋白は通常でも,その下流の因子であるMEK1/2に対して,その他のRAF蛋白(ARAF,RAF-1)より強い親和性を有しているとされている. 遺伝子変異によってBRAF蛋白の600番目のアミノ酸がバリンからグルタミン酸に転換すると,BRAF蛋白の構造変化を引き起こし通常よりさらに強力なリン酸化能を恒常的に発揮するようになると考えられている. また成人発症のPTCでは,BRAF遺伝子変異と遠隔転移との間に有意な相関性が認められることも指摘され,BRAF遺伝子変異が予後不良群のマーカーとなる可能性も注目されている. これに対して小児PTCsは成人例に比べて遠隔転移が高頻度に認められるにもかかわらず,予後が比較的良好であることが特徴である. そこで小児PTCsにおけるBRAF遺伝子異常の頻度を検討した. 更に,放射線汚染地域および非汚染地域でのPTCsの遺伝子異常の頻度を比較することにより,放射線被曝による変異誘発の可能性もあわせて検討することとした.
著者
柴田 義貞 ZHUNUSSOVA Tamara ZHUNUSSOVA T.
出版者
長崎大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

カザフスタン共和国のセミパラチンスク核実験場周辺地域住民における放射線被曝の影響を明らかにすることを目的として、乳がんの症例対照研究をセミパラチンスク市内にあるがんセンターとの共同研究として開始した。対象者は、1935年から1962年までに生まれ、核実験場周辺に在住する女性のうち、1980年から2005年までに原発性乳がんの診断された患者(症例)と、1症例に2人を年齢でマッチさせて選択した対照である。事前にがんセンターと緊密な連絡をとり、症例約100名と対照約200名のリストを作成し、2005年8月上旬に約1週間をかけて現地の診療所を回って面接調査をした結果、85人の症例と163人の対照から、居住歴、現在の生活状況、がんの家族歴、妊娠・出産歴、哺乳、食事、飲酒、喫煙、職業などの情報を得た。本年度は,これらの対象者の被曝線量推定のため、現地を訪問して居住歴の追加調査を行うとともに、対象者が居住していた村の緯度、経度、高度を測定した。これらのデータを日本に持ち帰り、国内研究者の協力を得て、対象者個人の被曝線量の推定を開始し、対象者の67%(166人)について被曝線量の推定が完了している。推定被曝線量は0-954.7mGyにわたっており、分布の25%点、50%点、75%点はそれぞれ0mGy、0.25mGy、30.7mGyであった。残りの対象者について、引き続き線量推定を行っている。
著者
柴田 義貞
出版者
日本学校保健学会
雑誌
学校保健研究 (ISSN:03869598)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.15-20, 2000-04-20
参考文献数
9
被引用文献数
3