- 著者
-
浅井 千晶
- 出版者
- 千里金蘭大学
- 雑誌
- 千里金蘭大学紀要 (ISSN:13496859)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, pp.80-84, 2010-10-29
宮崎駿監督の映画『崖の上のポニョ』は、異なる時空、生と死、現実と幻想の境界にあるダイナミックな物語である。この作品の舞台が海辺という境界の場に設定されていることで、原初の海と人間が生活する陸の世界の交錯があまり違和感なく受容できる。 さらに、『崖の上のポニョ』における「生命の水」の表象は、『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』における水の表象と比較すると、生命力の過剰を言祝いでいるかのようであり、映画の宣伝文句「生まれてきてよかった」というメッセージを裏書きする。 『崖の上のポニョ』は海なる母と地上から海の世界にきた父の間に誕生したポニョが人面魚から半魚人、人間へと二段階の変身を遂げること、海の世界の混乱が招いた大洪水で水没した町が水がひくと元通りである点など、不思議な力に満ちたファンタジーである。