著者
阪井 葉子
出版者
大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
no.51, pp.5-23, 2013-03-01

アメリカ合衆国からフォークリバイバル運動が世界中にひろまった1960年代、ナチス・ドイツによって破壊された東方ユダヤ人集落(シュテートル)に伝わっていたイディッシュ語の歌をレパートリーに、西ドイツで演奏活動をはじめた歌手たちがいた。彼らがイディッシュ・ソングを取りあげた動機は過去の克服とユダヤ文化の破壊に対する贖罪だった。その意図の真摯さ故に、彼らの演奏活動はユダヤ人教区やイスラエルでも認められた。ただし、社会批判的な運動であるはずのフォークリバイバルにも、伝統歌謡のうたいあげる過去の世界へのノスタルジーと結びついた保守的な側面がある。イディッシュ・ソングのうたう「失われたシュテートル」への憧れにふけることで、とりわけ若い世代のドイツ人のあいだで、自国の罪に対する意識が薄れていく危険性がある。

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