著者
中山 明子
出版者
大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.73-89, 2007

13世紀後半以降に北中部イタリアの諸都市で見られた豪族対ポポロの対立は、かつて階級闘争として捉えられたが今はむしろ当時の支配層内部の争いとして理解され、党派争いにおける「排除と統合」のメカニズムの面でも注目されている。A.ジョルジは豪族とポポロ関係のシエナモデルを分析し、有名なフィレンツェモデルなどとの比較を通じて相対化した。また都市内部のみならず周辺農村領域における両者の関係にも着目し、「ネオ・シニョリーア」の形成と拡大の過程を動態観察的に辿ることによって、領域支配体制を整えつつある都市とその支配下の農村の関係を明らかにした。本稿ではこのシエナモデル、及び「ネオ・シニョリーア」の具体的な内容を紹介し、筆者自身のテーマである折半小作制との接合点を提示する。
著者
大竹 道哉
出版者
大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
no.51, pp.53-70, 2013-03-01

フェルッチョ・ブゾーニ(Ferruccio Busoni, 1866-1924)は、イタリア、エンポリ出身の作曲家・ピアニスト・指揮者・音楽学者である。ピアニストとして幅広く演奏活動を行っただけでなく、作曲家として、オペラをはじめ、幅広いジャンルの作品を残している。また、バッハの作品を校訂し、オルガン作品を編曲したことでも知られている。音楽学者としての著作も残している。ヨハン・ゼバスティアン・バッハは、オルガンのためのコラールに基づかないフーガを含む作品を数多く残している。ブゾーニはこのうち5 曲をピアノに編曲した。このほかにもブゾーニは、バッハのオルガンのためのコラール前奏曲の編曲、自由な改作などを残している。今回は、バッハのオルガンのためのコラールに基づかないフーガを含む作品のピアノ編曲について、演奏者の視点から、特にピアノ編曲によってもたらされた演奏時における身体感覚の違いについて考察していきたい。
著者
永田 孝信
出版者
大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
no.51, pp.38-52, 2013-03-01

古典派音楽と比較すると、ロマン派音楽の和声には機能的に把握できない一連の和音の動きが含まれることが多い。本稿では、その中からRoving Harmony(浮遊和声)とParallelChord(平行和音)を取り上げ、両者が機能和声に基づく長・短調システムからの離脱であり、調性に曖昧さや不確定性を与える「非機能的和声」としての性格をもつこと、さらに両者は機能和声との相関的関係において調性の確定度に関与し、ロマン派音楽における調性の4 つの局面、すなわち「安定」「不安定(流動的)」「曖昧」「不確定」の状態をもたらすために必要不可欠な要素であることを明らかにする。また、この調性の4 つの局面が「夢と愛」に集約されるロマン主義の理念とどのように関連するかについても概説する。
著者
竹田 和子
出版者
大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.43-48, 2016-03-01

中部ヨーロッパ地域に、「ドイツ」の名を初めて冠した「ドイツ帝国」が誕生したのは、1871年、今から150年足らず前のことにすぎない。それ以前のドイツは18世紀になっても、300以上の領邦に分かれていた。ほぼ独立国家といってもよいこれらの領邦が一つにまとまるには相当な困難があったことは想像に難くない。しかし「国民」の一体感を高め、ドイツ統一に寄与した市民階級は、一方で新たな分裂を見ることになった。政治における近代の歴史的発展を、ドイツの歴史家オットー・ダンの5段階モデルに従って、1848年の3月革命までのドイツ史を概観し、ドイツの国民形成の過程について考察する。
著者
西村 理
出版者
大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
no.53, pp.7-22, 2015-03-01

東京放送局(JOAK)が、開局当初から日本交響楽協会、後に新交響楽団による演奏を放送していたように、大阪放送局(以下、JOBKと表記)も、開局の早い段階で大阪フィルハーモニック・オーケストラの演奏を放送し、1929年6月から約4年間の空白の時期があったものの、1933年4月には大阪ラヂオオーケストラおよび大阪放送交響楽団を発足させた。本論文では、JOBKの番組制作において放送オーケストラが、どのような役割を担っていたのかを明らかにすることを目的とする。1925年5月10日から1945年8月15日までJOBKの『番組確定表』、およびその番組に関する新聞記事の考察によって、大阪フィルハーモニック・オーケストラは地域に密着し、大阪文化の発展に寄与したのに対して、大阪ラヂオオーケストラおよび大阪放送交響楽団は、一地域に留まらず、全国に向けて発信していくJOBK独自の番組を制作していく上で重要な役割を担っていたと結論付けた。
著者
阪井 葉子
出版者
大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
no.51, pp.5-23, 2013-03-01

アメリカ合衆国からフォークリバイバル運動が世界中にひろまった1960年代、ナチス・ドイツによって破壊された東方ユダヤ人集落(シュテートル)に伝わっていたイディッシュ語の歌をレパートリーに、西ドイツで演奏活動をはじめた歌手たちがいた。彼らがイディッシュ・ソングを取りあげた動機は過去の克服とユダヤ文化の破壊に対する贖罪だった。その意図の真摯さ故に、彼らの演奏活動はユダヤ人教区やイスラエルでも認められた。ただし、社会批判的な運動であるはずのフォークリバイバルにも、伝統歌謡のうたいあげる過去の世界へのノスタルジーと結びついた保守的な側面がある。イディッシュ・ソングのうたう「失われたシュテートル」への憧れにふけることで、とりわけ若い世代のドイツ人のあいだで、自国の罪に対する意識が薄れていく危険性がある。
著者
谷口 真生子
出版者
大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
no.53, pp.62-73, 2015-03-01

ガットマンモーネは、イタリアで品行の悪い子どもに対する脅かしのために引き合いに出される怪物のことである。ガットマンモーネの名称とその存在はディーノ・ブッツァーティの作品から知った。どうやらイタリア以外の国では見かけない怪物のようであり、さまざまな描写や解釈がなされているようである。本稿ではガットマンモーネという名称とその履歴をイタリアの怪物にからめて考察し、さらに数種類のガットマンモーネについてを記述し、ガットマンモーネとは何であるか、という到達目標に向かう途中経過を報告するものである。
著者
西村 理
出版者
大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
no.52, pp.6-30, 2014-03-01

アントニーン・ドヴォルザーク(1841〜1904)の交響曲第9番作品95「新世界より」の第2楽章の旋律は、《家路》というタイトルで親しまれている。《家路》というタイトルは、ドヴォルザークの弟子ウィリアム・アームズ・フィッシャー(1861〜1948)が作詞し、1922年に出版した《Goin' Home》の訳語である。本論文の目的は、《Goin' Home》がいつから《家路》として知られるようになったのか、《Goin' Home》と《家路》の歌詞はどのような関係にあるのか、さらにどのようにして《家路》が流布していったのかを明らかにすることである。日本で1931年3月に発売されたシルクレットのレコードがきっかけとなり、《Goin' Home》は《家路》として知られるようになり、ラジオでは1932年以降、英語で歌われていたものの《家路》というタイトルで放送されるようになった。1934年以降、《Goin' Home》に基づいた複数の日本語歌詞による楽譜が出版され、ラジオでも1937年から《家路》もしくはそれに類するタイトルの曲が放送されるようになった。フィッシャーの《Goin' Home》の歌詞における「home」は、文字通りの「故郷」と「天国の故郷」という二重の意味を持っていたが、《家路》として流布していく過程で、前者の意味のみが広まっていった。
著者
永田 孝信
出版者
学校法⼈ 大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.23-42, 2016-03-01 (Released:2021-04-01)

本稿は、ベートーヴェンのピアノソナタについて、使用される調の数、主調との近親関係の有無、転調の頻度及び和声の観点から、この作曲家のソナタ形式における展開部の発展的方向性の詳細を明らかにするものである。このため、ベートーヴェンの32のピアノソナタの中から異なる年代に作曲された8曲を選び、それぞれ第1楽章ソナタ形式の展開部における調と和声の特徴的な展開手法について説明する。その上で、展開部が調の流動性と安定性の対比に基づいて構成される状況、また、調的展開に対する考え方が展開部に留まらず、次第に提示部・再現部・コーダ等の各構成区分や主題間の移行部、さらには主題の内部にまで浸潤していく状況を明らかにし、その背後にあるベートーヴェンの表現的着想の解明を試みる。本稿の特徴は、展開部において使用される調の範囲と調の推移の状況を曲ごとに図式化し、その特徴点を列挙するミクロ的なアプローチと、各曲に使用される調の実数と延べ数を算出して、全般的な傾向を俯瞰するマクロ的なアプローチを併用したことにあり、両者が相まって各論点に着実な根拠が示されるように努めた点にある。
著者
中畑 寛之
出版者
学校法⼈ 大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.55-71, 2007 (Released:2021-04-01)

19世紀末パリに生きた象徴派詩人ステファヌ・マラルメの未完の遺作『エロディアードの婚礼神秘劇』(1957年に死後出版)を採りあげ、その上演可能性を考えてみたい。22歳のときに制作が始まる「エロディアード」は、「もはや悲劇ではなく、詩篇とする」という若き詩人自身の言明ゆえに、その作品が根底に持っている演劇との繋がりをしばしば見失わせてきたように思われる。書簡などから再構成した30年以上に及ぶその制作過程、詩人自身の演劇論、そしてテクストそれ自体の解釈によって多角的に、この作品が晩年のマラルメが夢想した<祝祭>の譜面であること、そしてその演劇性を考察することで、来るべきその舞台上演の姿を明らかにする。
著者
竹田 和子
出版者
学校法⼈ 大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.66-71, 2018 (Released:2023-03-30)

産業が大きく発展した 19 世紀には、出版業界にも大きな変化が起きた。流通する出版物の量が増えるのに伴い、出版業者、書籍業者の中には他の出版社を吸収合併し、大企業へと発展するものも現われた。同時に彼らは自分たちの業界を組織化し、商売上のルールを整備しようとした。出版業者アドルフ・クレーナーは書籍店で徒弟修行を始め、結婚により印刷所を譲り受けて兄弟と共に出版社を運営、次第に事業規模を拡大し、他の出版社の買収により巨大グループ会社に成長させた。書籍業界の全国組織である書籍商取引所組合会長にもなった彼の経歴にはこの業界の動向がよく反映されている。それを辿ることで19 世紀後半から 20 世紀にかけての出版を巡る状況がより理解できるはずである。
著者
西村 理
出版者
学校法⼈ 大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.6-30, 2014-03-01 (Released:2021-04-01)

アントニーン・ドヴォルザーク(1841〜1904)の交響曲第9番作品95「新世界より」の第2楽章の旋律は、《家路》というタイトルで親しまれている。《家路》というタイトルは、ドヴォルザークの弟子ウィリアム・アームズ・フィッシャー(1861〜1948)が作詞し、1922年に出版した《Goin' Home》の訳語である。本論文の目的は、《Goin' Home》がいつから《家路》として知られるようになったのか、《Goin' Home》と《家路》の歌詞はどのような関係にあるのか、さらにどのようにして《家路》が流布していったのかを明らかにすることである。日本で1931年3月に発売されたシルクレットのレコードがきっかけとなり、《Goin' Home》は《家路》として知られるようになり、ラジオでは1932年以降、英語で歌われていたものの《家路》というタイトルで放送されるようになった。1934年以降、《Goin' Home》に基づいた複数の日本語歌詞による楽譜が出版され、ラジオでも1937年から《家路》もしくはそれに類するタイトルの曲が放送されるようになった。フィッシャーの《Goin' Home》の歌詞における「home」は、文字通りの「故郷」と「天国の故郷」という二重の意味を持っていたが、《家路》として流布していく過程で、前者の意味のみが広まっていった。
著者
永田 孝信
出版者
学校法⼈ 大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.74-91, 2014-03-01 (Released:2021-04-01)

本稿は、F. ショパンの3曲のピアノソナタについて、それぞれ第1楽章ソナタ形式の展開部がどのような和声的着想によって構成されているのかを主要な論点とする。その際、特に問題となるのは、ピアノソナタ第2番の展開部が8小節または16小節に整然と区分され、各部分が変化と統一の理念に基づいた明瞭な組織性を示すのに対し、ピアノソナタ第3番の展開部が入り組んだ様々な要素のために混迷の度を深めているように見えることである。ピアノソナタ第2番と比較して、第3番の展開部が分節できない程に複雑な様相帯びる原因はどこにあるのだろうか、また3曲のピアノソナタの展開部における和声的着想には何らかの関連性が認められるのだろうか。本稿は、ショパンの各ピアノソナタの第1楽章展開部における調経過の把握と和音分析を通じて、これらの疑問点の解明を試みる。
著者
永田 孝信
出版者
大阪音楽大学
雑誌
大阪音楽大学研究紀要 (ISSN:02862670)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.23-42, 2016-03-01

本稿は、ベートーヴェンのピアノソナタについて、使用される調の数、主調との近親関係の有無、転調の頻度及び和声の観点から、この作曲家のソナタ形式における展開部の発展的方向性の詳細を明らかにするものである。このため、ベートーヴェンの32のピアノソナタの中から異なる年代に作曲された8曲を選び、それぞれ第1楽章ソナタ形式の展開部における調と和声の特徴的な展開手法について説明する。その上で、展開部が調の流動性と安定性の対比に基づいて構成される状況、また、調的展開に対する考え方が展開部に留まらず、次第に提示部・再現部・コーダ等の各構成区分や主題間の移行部、さらには主題の内部にまで浸潤していく状況を明らかにし、その背後にあるベートーヴェンの表現的着想の解明を試みる。本稿の特徴は、展開部において使用される調の範囲と調の推移の状況を曲ごとに図式化し、その特徴点を列挙するミクロ的なアプローチと、各曲に使用される調の実数と延べ数を算出して、全般的な傾向を俯瞰するマクロ的なアプローチを併用したことにあり、両者が相まって各論点に着実な根拠が示されるように努めた点にある。