著者
佐久間 亜紀
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.97-112, 2010-06-30

本稿では,90年代以降の教員養成カリキュラムの変容とその問題点を,高等教育全体の改革動向に位置づけて整理した。先行研究において,教員養成論と高等教育論は乖離しがちであり,近年の高等教育改革が教員養成カリキュラムに及ぼした影響は,充分に検討されてこなかった。高等教育全体に市場原理を導入する90年代以降の改革は,教員養成大学・学部と教育委員会の「連携」を「融合」ともいえる状態にまで至らしめ,大学教育の質を向上させるという本来の意図とは裏腹に,教員養成力リキュラムの「矯小化」や「非学問化」を進行させていた。また,90年代にいったんは規制緩和に向かった教免法の改革は,00年代以降「再統制化」の傾向を強め,教員養成カリキュラムの「規格化」を進行させていた。そして教員養成大学・学部は,学生の成長を支援し教員を「養成」する機関から,国や地方自治体の求める規格や要望にあわせて教員を「供給」する機関へと変質しつつあった。これらの変化から,改革の意図とは裏腹に,輩出される教員の「質」が低下している可能性を指摘した。最後に,大学とは何かという共通理解が失われた高等教育界の現状を踏まえれば,先行研究の鍵語とされてきた「大学における教員養成」「開放制」という二語では,もはや近年の教員養成の変容を捉えきれなくなっていることを指摘した。その上で,今後の教員養成研究は,高等教育論に充分根ざしつつ探究される必要があることを論じた。

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