著者
山口 直人
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.14-22, 2013-02-25

がん対策として、一次予防、二次予防、三次予防を効果的に組み合わせた総合的な取り組みが求められている。我が国のがんの罹患率、死亡率の年次推移を分析して、我が国のがん対策がどのような影響を与えつつあるかを考察した。0〜79歳の累積罹患確率で分析した結果、2007年の罹患リスクが最も高かったのは、男では、胃、肺、前立腺、結腸、肝、女では、乳房、胃、結腸、肺、肝の順であった。また、1997年から2007年までの10年間に男女とも累積罹患確率には上昇傾向が認められること、10年間の変化率は男6.77%に対して、女14.09%であり、女の方が、変化率が大きいことが明らかとなった。また、部位別の分析では、男では前立腺癌の変化率が150.10%と非常に大きいこと、女では子宮体癌、乳癌の変化率が大きいことが明らかとなった。,1975年以降の5歳年齢階級別罹患率および死亡率(50〜79歳)の年次推移の分析を行ったところ、乳癌に対するマンモグラフィー検診、前立腺癌に対するPSA検診では、がん検診による過剰診断の可能性が示された。また、胃癌(特に男)についても、過剰診断について検討が必要であることが示唆された。大腸癌では、便潜血反応による検診は、良性の腺腫性ポリープの摘除につながり、その結果として大腸癌のリスクを低下させる可能性があることが示唆された。さらに、肝癌と肺癌では出生コホートによって生涯の罹患リスクが異なることが示され、一次予防の重要性が示された。,本論文は記述的な解析によるものであり、因果関係を実証するものではなく、示された結果は、今後の研究の方向性を示すものである。特に、がん検診による過剰診断の問題は、我が国における実態について、これまでに行われた研究で十分に実証されたとは言えないことから、さらなる研究の推進が求められる。

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