- 著者
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勝又 悦子
- 出版者
- 同志社大学
- 雑誌
- 一神教学際研究 (ISSN:18801072)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, pp.38-62, 2012
三大一神教の祖とされるアブラハムが唯一神の認識に至る道程は、ヘブライ語聖書では描かれていない。しかし、第二神殿時代文学、ラビ・ユダヤ教文献、タルグム(アラム語訳聖書)、クルアーン他には、いかにアブラハムが、唯一の神を認識し、父の代までの偶像崇拝と対決し、画策の上 、打破したかを描く共通の構成要素からなる伝承が広く存在する。本稿では、おそらく高い人気を博したと思われるこの「偶像を打破するアブラハム」伝承を、『ヨベル書』『アブラハムの黙示録』『創世記ラッバ』『タルグム・偽ヨナタン』そして、イスラームの『クルアーン』から訳出し、共通する構成要素を抽出し、強調点の相違、また父テラへの関係の相違から比較する。その結果、『ヨベル書』では唯一神の認識の重要性 、『アブラハムの黙示録』では偶像崇拝との対決が、『創世記ラッバ』『タルグム・偽ヨナタン』では様々な構成要素が万遍無く現れ、聖書解釈としての整合性の維持への関心が強いこと、また、『クルアーン』でのアブラハムは、地元住民への唯一神観念の導入を果たす役割に重点が置かれていることが窺える。