- 著者
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脇本 聡美
Satomi WAKIMOTO
- 出版者
- 神戸常盤大学
- 雑誌
- 神戸常盤大学紀要 (ISSN:18845487)
- 巻号頁・発行日
- no.2, pp.1-7, 2010
両親を亡くし、財産も少ない29歳のリリー・バートはその美貌と洗練された感性を駆使し、華やかなニューヨーク社交界に受け入れられようと、金銭的な力を持つ結婚相手を求めている。ソースティン・ヴェブレンの言う「顕示的消費」が社会的規範となっている社交界では、個人の金銭的な力が社会的名声と直結する。有閑階級の生活を手に入れようとする一方で、リリーはその社会的規範を超越したいという願望を持っている。結局、金銭的な力は手に入らず、でっち上げられたスキャンダルによって社交界を追放されたリリーは、自活する術ももたず、窮地に陥る。たまたま手にしていた手紙によって、リリーは自分を陥れた相手に復讐し、社交界に返り咲くという手段が残されていたが、自分が本当に求めていたものは、物質的ではなく精神的な充足であると気付いたリリーは、その手段を使うことなく、命を落とす。金銭至上主義社会の順応者になることを放棄し、人間として正実な道を選び死んだリリーは、道徳的にイノセンスを貫いたという点では、アメリカのイヴに、人間として気高い選択をして破滅したという点では、悲劇のヒロインと見ることができる。自分自身も社交界の中心にいた作者イーディス・ウォートンは、リリーの悲劇によって金銭至上主義となった社会を批判している。