著者
大田 美香 小田 剛 喜多 伸一 前田 英一 菅野 亜紀 高岡 裕
出版者
神戸常盤大学
雑誌
神戸常盤大学紀要 (ISSN:18845487)
巻号頁・発行日
no.9, pp.23-34, 2016-03-31

我が国では、緑内障や糖尿病性網膜色素変性症の罹病率の増大に伴い、弱視者の数が増加している。これらの中途視覚障害者の多くは中高年で残存視覚への依存が大きく、点字の習得が困難である。加えて、点字教育を担当する教師も減っており、これら中途視覚障害者の点字学習をより困難にしている。そこで我々は、残存視覚 (RV)のみを使用する画面によるプログラム、画面と点字ディスプレイ(BD)が協働するプログラム、画面と音声アシスト(BDV) が点字ディスプレイと協働するプログラム、の3種類のWebベースのe-ラーニングプログラムと基本API (Application Programming Interface) を研究開発した。
著者
Иванов Ю. А. 後藤 隆雄 田中 正義
出版者
神戸常盤大学 :
雑誌
神戸常盤大学紀要 (ISSN:18845487)
巻号頁・発行日
no.5, pp.23-37, 2012

チェルノブイリの立ち入り禁止区域及び退避勧告区域(無条件再定住区域)で、90Sr と137Csの土壌から植物への長期に亘る移動が測定された。本論文では移動の主たる要因を解析した。放射性降下物質(フォールアウト:fall-out)の様々な痕跡に対する土壌中の移動形態、放射性核種の水系での形成過程、放射性核種の垂直方向移動のプロファイル、土壌から植物への放射性核種の移動等について計算した。更に、移動過程のメカニズムを定量的に計算した。
著者
脇本 聡美 Satomi WAKIMOTO
出版者
神戸常盤大学
雑誌
神戸常盤大学紀要 (ISSN:18845487)
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-7, 2010

両親を亡くし、財産も少ない29歳のリリー・バートはその美貌と洗練された感性を駆使し、華やかなニューヨーク社交界に受け入れられようと、金銭的な力を持つ結婚相手を求めている。ソースティン・ヴェブレンの言う「顕示的消費」が社会的規範となっている社交界では、個人の金銭的な力が社会的名声と直結する。有閑階級の生活を手に入れようとする一方で、リリーはその社会的規範を超越したいという願望を持っている。結局、金銭的な力は手に入らず、でっち上げられたスキャンダルによって社交界を追放されたリリーは、自活する術ももたず、窮地に陥る。たまたま手にしていた手紙によって、リリーは自分を陥れた相手に復讐し、社交界に返り咲くという手段が残されていたが、自分が本当に求めていたものは、物質的ではなく精神的な充足であると気付いたリリーは、その手段を使うことなく、命を落とす。金銭至上主義社会の順応者になることを放棄し、人間として正実な道を選び死んだリリーは、道徳的にイノセンスを貫いたという点では、アメリカのイヴに、人間として気高い選択をして破滅したという点では、悲劇のヒロインと見ることができる。自分自身も社交界の中心にいた作者イーディス・ウォートンは、リリーの悲劇によって金銭至上主義となった社会を批判している。
著者
松田 光信 河野 あゆみ 先谷 亮 Mitsunobu MATSUDA Ayumi KONO Ryo SAKITANI 神戸常盤大学保健科学部看護学科 神戸常盤大学保健科学部看護学科 財団法人松原病院
出版者
神戸常盤大学 :
雑誌
神戸常盤大学紀要 (ISSN:18845487)
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-8, 2012

本研究の目的は、早期退院を控えた統合失調症患者の服薬アドヒアランスに影響する要因を探索し、看護実践の示唆を得ることであった。対象者は、精神科急性期治療病棟に入院中の統合失調症患者22名(男性9名、女性13名)、平均年齢44.6±13.0歳、平均罹病期間12.7±13.5年、平均入院回数2.8±3.1回、心理教育参加者15名であった。データ収集は、心理教育開催時期に合わせ、開催前にデモグラフィックスデータ、治療状況、CP換算値、機能の全体的評価、服薬アドヒアランス、服薬と病気の知識を測定し、開催後にCP換算値、機能の全体的評価、服薬アドヒアランス、服薬と病気の知識を測定した。データ分析には、強制投入法による重回帰分析を用いた。結果、服薬アドヒアランスへの影響要因は、年齢、罹病期間、職業、心理教育参加、心理教育開催前の服薬アドヒアランス(MPS、DAI-10)であり、モデル全体の78 ~ 86%が有意に説明された。これより、患者の個人特性を考慮した服薬アドヒアランスを高める支援を模索する必要性と、心理教育が患者の服薬アドヒアランス改善に向けた看護援助になり得ることが示唆された。
著者
Yang Manuel 黒野 利佐子
出版者
神戸常盤大学・神戸常盤大学短期大学部
雑誌
神戸常盤大学紀要 (ISSN:18845487)
巻号頁・発行日
no.1, pp.61-70, 2009

アメリカのフォーレン・アフェアズ(Foreign Affairs)誌2007年一月/二月号は、世界保健を専門とするジャーナリストであるローリー・ギャレットの記事「グローバルな公衆衛生の課題」("The Challenge of Global Health")を掲載した。この記事に対して、ハーバード大学社会医療学部所属の医師/人類学者ポール・ファーマーはコメント("Intelligent Design")を書き、それにまたギャレットは返答をした("The Song Remains the Same")。下記に訳出されているのは、フォーレン・アフェアズ誌2007年三月/四月号に掲載された、この討議であり、それを独立した形で発表すのには幾つかの重要な意義がある。第一に、フォーレン・アフェアズ誌がアメリカ政府と密着した超党派的組織「外交問題評議会」(Council of Foreign Relations)の出版物であり、「外交問題評議会」の一員であるギャレットとファーマーの討議に耳を傾けるのは、世界保健政策の動向に多大な影響を与えている政策立案者たちの議論を知る大きな手がかりになるからである。第二に、貧困国において最も大きな成果を収めている草の根医療団体の一つであるPartners in Health(PIH)の創始者の一人であり、ハイチを基点として世界の貧民保健の戦線で精力的に働き続け、社会医療の指導的な存在であるポール・ファーマーの議論は、現場にいる当事者特有の現実的で建設的な視点から展開されているだけではなく、発展途上国における保健医療と資金や国家も含む組織性に関する示唆に満ちている(ピューリッツァー賞作家トレイシー・キダーの手による、アメリカでベストセラーにもなったファーマーの伝記は『国境を超えた医師』として邦訳されているので、ファーマーの仕事に興味がある方には一読を勧める)。第三に、ファーマーが下記で「ハイチモデル」と呼んでいる「家族を基盤とした」治療方法は、医師や看護師といった職業枠を超えた地域共同体と有機的に繋がっている保健労働者を母体にしているもので、「保健」を医療的な問題だけではなく、「保健」に必要不可欠な生活の糧、清浄な環境、公正な労働条件を含む社会問題として捉える実践的模範を示している。日本の保健医療システムで働く我々が、世界といかに関わるべきなのかについてファーマーは大切なヒントを与えてくれるかもしれない。ギャレットは感染症を中心とした医療問題に関わる著名なアメリカのジャーナリストで、邦訳された著作は『カミング・プレイグ―迫りくる病原体の恐怖』と『崩壊の予兆―迫りくる大規模感染の恐怖』の二冊がある。ギャレットが「グローバルな公衆衛生の課題」(日本語版フォーレン・アフェアズ誌で入手可能)で展開している主旨はアフリカやハイチを含む困窮した地域に投入されている保健関係の資金は近年膨らんでいるが、それは貧民の保健を援助するどころか様々な問題を引き起こし、世界保健の危機の要因にまでなっている。その理由は資金の使用法が「垂直的に」限定されているからである(ギャレットは「ストーブの煙突」という比喩を用いている)。例えば、エイズに指定されている資金は他の疾患に割り当てることが出来ないため、バランスの取れた保健対策が出来ない現状を生んでいる。そして、これを改善するには地域からの頭脳流出を止め、援助の対象を貧民の保健全般に変えねばならないというものである。これに対してファーマーは、エイズ資金がこれだけ集結しているのは過去の資金不足の時期に比べれば世界保健の趨勢が健全な方向に向かっている印であり、ギャレットの指摘する問題は誤った管理を解消すれば改善されると主張する。その根拠として彼はハイチで特に大きな成果を実現したPHPの経験を引き合いに出し、ハイチに関する限り健康指標の低下はクーデターのような政治状況の悪化によるものだと反論するのだ。「保健」を人権全般の改善と切っても切れない本質的問題として捉えることをファーマーは特に強調し、エイズ資金の拡大に見られる「素晴らしい情勢」を全世界の保健を可能にするきっかけとして活用すべきだと提唱している。ギャレットはファーマーの功績に尊敬を示しつつも、記事で打ち出した自分の立場を保持する。つまり、保健資金が建設的なプログラムを作成できることを問題にしているのではなく、数十億ドルにも及ぶ資金を「夥しい数の世界保健プログラムにおける混沌、競争、頭脳流出、そして腐敗の現状」が無駄にしている現実を問題にしているのだと。|The following is a Japanese translation of an exchange between the American physician and anthropologist Paul Farmer and journalist Laurie Garrett over Garrett's "The Challenge of Global Health", an article that appeared in the January/February issues of Foreign Affair. In it Farmer points out that although many of the criticisms Garrett lays at the feet of recent resurgence in what she describes "stovepipe" funds - funds earmarked for specific disease, particularly AIDS - in failing to promote general healthcare in the world's poorest countries are justified, his own experience with Partners in Health( of which he is a co-founder) in practicing social medicine at the grassroots in Haiti, Rwanda, and other places demonstrate the possibility of utilizing these very "stovepipe", vertical funds for "horizontal", more comprehensive healthcare. In order to actualize such a universal healthcare, which views health as an inalienable human right, he offers a successfully field-tested alternative model of effective social medicine, in which trained healthcare workers distribute medication and work with doctors and nurses to integrate treatment with fulfillment of everyday social needs, such as subsistence and clean environment. Garrett's reply, while acknowledging Farmer as one of the "heroes" in the current struggle for global healthcare, notes that she never questioned the constructive use of funds butthe recent resurgence of funds in the billions of dollars "ought to buy better" services.
著者
戸川 晃子
出版者
神戸常盤大学
雑誌
神戸常盤大学紀要 (ISSN:18845487)
巻号頁・発行日
no.6, pp.35-47, 2013-03-31

クラシック音楽コンサートは、対象とする観客によって分別した際、マタニティーコンサート、親子のため のコンサート、そして「未就学児入場不可」のコンサートと、大きく3つのスタイルに分かれると考えられる。 しかし、未就学児の入場が可能でなおかつ、一般的なクラシック音楽で構成されたコンサートについてはあま り例がないと言える。本研究は、クラシック音楽の生の演奏を聴くことは、未就学児を含めた多世代に有用で あると考え、未就学児における、いわゆる単なる「子ども向け」ではない、一般的クラシック音楽プログラム コンサートの有用性について考察するものである。