- 著者
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杉本 久美子
土橋 なつみ
泰羅 雅登
臼井 信男
- 出版者
- 日本味と匂学会
- 雑誌
- 日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, no.2, pp.151-160, 2013-08
口腔内に摂り入れた食物からの味覚情報は、大脳皮質の第一次・第二次味覚野に伝えられて、味が知覚・認知されるだけではなく、意識にのぼらない形で自律神経を介して唾液分泌を始めとする消化器系への調節を引き起こす。それと同時に、大脳辺縁系に送られた味覚情報は快・不快の情動を生じ、その評価結果が摂食行動として表出される。このような味覚刺激に対する生体反応が味の質によって異なるのかという点を調べるため、自律神経の応答ならびに脳波による脳活動の解析を行って検討した。その結果、自律神経活動においては、唾液分泌促進効果のあるうま味刺激で副交感神経活動の上昇がみられたのに対し、一様に嫌われる苦味刺激では唾液分泌促進効果が低く、交感神経活動が上昇すること、ならびに副交感神経活動と唾液分泌量との間には正の相関があることが明らかとなり、副交感神経を亢進させるうま味などは他の消化器にも促進作用を及ぼすが、交感神経を亢進させる苦味は負の調節を行う可能性が示唆された。また、脳波から情動の基本的4感情、すなわち喜(満足感)、怒(ストレス)、哀(気落ち感)、楽(リラックス感)のレベルを解析した結果、甘味と酸味刺激中の満足感の上昇や苦味刺激中のストレス上昇とリラックス感低下など、味質により異なる感情の変化パターンが観察され、この方法を用いて刺激に対する情動変化の客観的把握が可能となることが示唆されたので、本稿で紹介する。