著者
南澤 甫 川井 充 今野 義孝
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.199-203, 2010-09

目的 本研究は,筋萎縮性側索硬化症および多系統萎縮症の発症から診断確定までの間に患者が経験する心理的体験を捉え,診断未確定期における患者の心理状態を明らかにして,医療供給体制や難病患者支援体制のより良いあり方を考える資料を提供することを目的とする.方法 国立病院機構東埼玉病院(以下,当院という)を受診中で,研究参加に同意を得られた患者に対して診療録調査と半構造化面接を行う.半構造化面接では,1)初めて症状に気づいたときの気持ち,2)医療機関を受診したときの説明とそれについてどのように感じたか,3)最終診断の告知をどのように受けたか,4)現在の療養生活をどのように捉えているか,5)人生に対する考え方,等を自由に語ってもらう.結果 診療録調査から,確定診断に至るまでの年月として,最低でも二年,長ければ十年以上を要するということが明らかとなった.半構造化面接については,初めて症状に気づいたときの気持ちとして,「こんな重大な病気だとは思わなかった」といった語りが得られた.医療機関を受診したときの説明とそれについてどのように感じ,受け止めたかについては,「わかりにくい部分があった」といった語りが得られた.最終診断の告知をどのように受けたか,またそれについてどのように感じたかについては,「これで人生終わりだと思った」といった語りが得られた.現在の療養生活をどのように捉えているかについては,「自分の今後が知りたい」といった語りが得られた.人生に対する考え方については,「人に迷惑をかけない」といった語りが得られた.結論 診療録調査から,初期段階において神経難病の可能性を推測することは,患者はもちろんであるが医師にも著しく困難であると考えられた.つまり,診断未確定期における患者は,症状を自覚してはいるが,それを神経難病と結び付けることはほとんどないと考えられる.それは,医師も同様である可能性が示唆された.一度の受診で正確な診断が下されることはなく,患者は進行する症状となかなかはっきりしない病名に不安やいらだちを覚えていることがうかがわれた.また,医師による説明に患者は満足していないことが明らかになった.個人差という言葉や,専門用語に隠されて自身の病気の実態が見えないという患者の訴えが聞かれた.患者の求める情報と,医師による説明とが一致しないことへの不満も聞かれた.一方,同じ内容を伝えるとしても,患者に分かりやすいように伝えようとする医師の姿勢は患者に伝わるのであり,そこに患者は信頼を寄せるということが考えられた.

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こんな論文どうですか? 病院ベースの情報収集方法の検討-筋萎縮性側索硬化症と多系統萎縮症患者の発症から診断確定までの心理的体験-(南澤 甫ほか),2010 https://t.co/OAMLeAGCLF
こんな論文どうですか? 病院ベースの情報収集方法の検討-筋萎縮性側索硬化症と多系統萎縮症患者の発症から診断確定までの心理的体験-(南澤 甫ほか),2010 https://t.co/OAMLeAYdDd

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