- 著者
-
西木 政統
- 出版者
- 日本橋学館大学
- 雑誌
- 紀要 (ISSN:13480154)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, pp.94-81, 2014-03-01
比叡山延暦寺一乗止観院(根本中堂)に最澄自刻と伝わる薬師如来像は、天台宗の中心的尊像として信仰を集め、数多くの模像が造られた点で、日本の薬師造像史上、特異な存在である。その模像は「天台系薬師如来」と呼称されているが、室生寺金堂に伝来する像もその一例とされる。本稿は、史料上の言及を整理することで原像の像容を確認しつつ、本像が改めて天台系薬師と認められること、制作年代が九世紀末から一〇世紀初頭頃に求められることを指摘した。そのうえで、伝来についても再検討を行い、複数の薬師如来像が祀られていた根本中堂の尊像構成を反映し、もともと室生寺金堂に奉納された可能性を提示するに及んだ。以上、本稿はあくまで一作例の再検討にとどまるが、天台系薬師に対する信仰が普及する一様相の解明を企図したものである。