著者
坂井 博通
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.29-38, 1995

近年「丙午」研究の範囲が広がり, 1906年と1966年以外の「丙午」にも明かりが投げかけられると同時に1966年の「丙午」に関しては,ミクロデータを用いて出生間隔の研究もなされ始めた。しかし,今までの「丙午」研究は,次の3つの視点(1)「丙午」の影響が及んだ範囲, (2)「丙午」生まれの子ども側から見た特徴, (3)「丙午」が与えた社会人口学的影響,が欠けていると考えられるために, 1966年の「丙午」を例に検討を行った。「丙午」の影響が及んだ範囲に関しては,主に人口動態統計を用いて,「丙午」を含む前後20年の出生数,出生性比の動向を観察した結果, (1-1)在日韓国・朝鮮人や在日中国人, (1-2)外国在住の日本人, (1-3)非嫡出子に関しても「丙午」の影響が見られたことを確認し,「丙午」迷信の内容が,マスコミだけでなくパーソナルな伝播により普及した可能性が大きいことを示唆した。また,「丙午」の影響測定には,出生数と出生性比の両方を検討する必要を述べた。「丙午」生まれの子ども側から見た特徴に関しては,主に厚生省人口問題研究所が1985年に行った「昭和60年度 家族ライフコースと世帯構造変化に関する人口学的調査」(サンプル数7,708)の全国調査の分析により,他の年次生まれの子どもと比較して,「丙午」生まれの子どもは, (2-1)父方のおじ,おばは多くないが,母方のおじ,おばが多く,その母親の出産意欲に母親自身の兄弟姉妹数が正の影響を及ぼした可能性のあること, (2-2)特に第2子の場合,男女とも兄弟姉妹数が多いこと, (2-3)父がホワイトカラーの割合が大きく,迷信から自由な出産が多かった可能性があること, (2-4)「丙午」前後生まれの者も含めて「丙午」の迷信をよく知り,さらに,自分も「丙午であっても出産した」と答える割合が大きい,という知見を得た。「丙午」と関連する社会人口学的影響に関しては,人口動態統計と人口移動統計により,「丙午」の年において, (3-1)例年より低い3月の出生性比と例年より高い4月の出生性比, (3-2)低い移動性比, (3-3)女子の自殺の増加,自殺率の上昇, (3-4)母子世帯の増加と翌年の減少,「丙午」と翌年の性病罹患数の増加,を見出した。その原因に関しては,それぞれ,「丙午」と関連させて,「丙午」年度生まれの女子を忌避する届出操作,出産を控えた女子の人口移動の活発化,女性の価値の低下,家庭内禁欲に伴う家庭外性行動の活発化の観点から論じた。

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