- 著者
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松村 剛志
- 出版者
- 日本保健医療社会学会
- 雑誌
- 保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, no.1, pp.25-36, 2005
- 被引用文献数
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従前の高齢者介護研究においては、主に家族介護者に焦点があてられ、要介護者の視点が欠如していたといえる。また、家族介護といった場合、老親扶養がその着目点の中心であった。そこで本論文では、在宅で介護を継続している9組の夫婦にインタビュー調査を行い、介護関係の発生による夫婦関係の変化を明らかにしようと試みた。その結果、夫婦双方の語りの中から、性規範に基づいて家庭内で分業されていた役割が、夫権支配は残存しながらも、要介護状態の発生により、双方の能力に応じて再配分されていく様子が浮かび上がってきた。夫婦間介護における関係性には、勢力の偏重による支配と依存という側面とお互いに気遣い合うという相補的な側面の共存が認められた。また、夫婦関係と介護関係という二つの関係は、特定場面で調和的に使用されているわけではなく、そのズレは夫婦間の不満や葛藤の原因となっており、その多くは感情労働を求められる妻に生起していた。