著者
伊東 真知子
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.144-159, 2014

科学が発展する過程には,既存の研究分野にまたがる学際分野の形成が欠かせないが,科学の潮流を生み出しうる新しい分野の形成は日本では必ずしも活発ではない。学際研究にはさまざまな困難が伴うため,その軽減策を国から現場までのレベルにおいて検討・実施することが重要である。近年では書誌情報等の定量的解析の普及も進んでいるが,論文が公表される以前の学際研究はどのように芽生えるものであり,何に対するどのような支援が可能なのだろうか。今後の学際研究促進策の立案のために,定量的データを補完する定性的データを得ることを目的として,日本のゲノム研究コミュニティを例にとり,資料調査と研究者への半構造的インタビューをおこなった。学際分野への転進の契機には能動的な例も受動的な例もみられたが,その違いに対する否定的な言及はみられず,むしろ学際交流やハイリスク研究を制度設計によって促すべきという意見もみられた。学際交流の場は,研究に直接関係する情報交換だけでなく,優秀な若手研究者の奨励や,創造性に貢献する浅く広い人脈の形成という機能も担っていることが示された。学際的な分野であっても,研究者には深い専門性が求められ,異分野の知識や技術の習得にはまとまった時間と労力がかかる。今回は,大学院生時代に解析対象を広げた例と,学位取得直後に集中的に習得した例がみられた。既に職を得た研究者が異分野に挑むための制度が望まれている。

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