- 著者
 
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             柴田 勝二
             
          
 
          
          
          - 出版者
 
          - 日本文学協会
 
          
          
          - 雑誌
 
          - 日本文学 (ISSN:03869903)
 
          
          
          - 巻号頁・発行日
 
          - vol.45, no.9, pp.38-50, 1996-09-10 
 
          
          
          
        
        
        
        三島由紀夫の『鏡子の家』は時代の相貌を描くという意図のもとに書かれた作品だが、そこにあらわれているものはむしろ三島自身の内に生じるに至った「壁」である。夭折への志向を断念し、現実生活を受容しようとすることがこの作品の動機を成すとともに、作者における表現への衝動を希薄にしていた。この作品で追いやられた存在として登場する父親は戦後社会において追放されていた天皇の寓意であり、この「天皇」の導入が三島の世界に新しい基調をつくっていく。『鏡子の家』はその端緒となる作品であった。