著者
梶丸 岳
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.58-65, 2013

本稿は,中国貴州省のプイ族が歌う掛け合い歌「山歌」において,貴陽市で時折見られるバイリンガルの掛け合いについて事例を報告し,言語交替とコードスイッチングという観点からその背景を探ったものである.山歌には中国語で歌う「漢歌」とプイ語で歌う「プイ歌」があるが,両者は通常同じ掛け合いで両方歌われることはない.だが貴陽市では両者の形式が似ていることもあって,稀に両方歌われることがある.本稿で取りあげる事例のひとつは一般的状況で高齢の歌い手が歌うものであり,もうひとつは貴陽市布依学会が主催する行事で中年の歌い手が歌うものである.貴陽市は貴州省の中心地であり,プイ族居住地域で最も中国語への言語交替が進んでいる地域である.よって前者の事例は今でもプイ語の方が流暢な歌い手が,より自らにとって歌いやすい言語で歌っているのだが,後者の事例ではむしろ,プイ族文化を推進する場という社会的環境がプイ語で歌うことの背景にあると考えられる.また,山歌の歌詞は一定の形式を持つ定型句をもとに即興で作られるが,山歌におけるコードスイッチングは常に歌詞の形式に沿った形で行われていることから,コードスイッチングに歌詞の形式や記憶のありかたが大きく関わっていることがわかる.以上から,コードスイッチングや言語交替にはスピーチコミュニティだけでなく,言語行為のジャンルの持つ社会的文脈と固有の形式が関与しうることが明らかとなった.

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CiNii 論文 -  中国貴州省の掛け合い歌「山歌」におけるコードスイッチング : 言語交替と文化復興のはざまで https://t.co/PiOIORL4nl #CiNii

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