著者
北嶋 秀子
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.227-238, 2015

暈繝彩色は,仏像や仏具など仏教関係のものに施され,主に「紺(青)・丹(赤)・緑・紫」のグラデーションを用いて,鮮やかな多彩感や立体感を表す装飾的な彩色技法である.暈繝彩色は,インドから中国に伝わり,中国で完成したと考えられる.以前にも拙稿で暈繝彩色について検証したことがあるが,本稿では敦煌莫高窟における進化の過程とともに,暈繝彩色の定義についても再検証した.敦煌莫高窟の壁画を時代ごとに『中国石窟・教煌莫高窟』で確認しながら,先学の研究を基に暈繝彩色について再検証した結果,教煌莫高窟において6世紀前半には筆禍らしき彩色法が見られ,7世紀には暈繝彩色が完成していたと考えられる.薄暗い石窟内は少ない光量ゆえに,物体が平面化し通常と異なる視感竟に陥ることが想像される.その平面化の問題を解決する方法として,暈繝彩色を構成するグラデーションの段数を,増やすことが考えられた.それによって「色彩による立体感」を獲得し,暈繝彩色が爛熟期に達したと考えられるのである.さらに,暈繝彩色のグラデーションは,彩度を強く意識したトーンのグラデーションであることも明らかになった.薄暗い環境下で立体感を表出するために工夫された彩色法が,それまでの暈繝彩色を完成された暈繝彩色へ高めたと考えられる.

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