- 著者
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中尾 友紀
- 出版者
- 社会政策学会
- 雑誌
- 社会政策 (ISSN:18831850)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.3, pp.141-152, 2016
本稿の目的は,労働者年金保険法案の第76回帝国議会への提出そのものを当時の社会情勢や,それを受けた議会や政府の動きのなかに位置づけて把握することで状況を描き出し,同法案提出の経緯を明らかにすることである。その際に用いたのは新聞記事,帝国議会議事録,国立公文書館所蔵の行政文書等の一次資料である。その結果,次の3つが明らかとなった。第1に議会を短縮するために,政府は同法案を一旦提出未定としていた。つまり,同法案の提出は,政府全体から戦時体制強化のために要請されたのではなかった。第2に,提出には大蔵省,財界,軍部,商工大臣等の閣僚が反対していた。しかし,保険料負担の過重に反対した財界を除き,軍部や閣僚の反対は速やかに議事運営できなくなるからであり,同法案そのものへの反対ではなかった。第3に,同法案の提出は,閣僚らの反対で閣議を通らなかったにもかかわらず,なお諦めない厚生省によって遂行されていた。