著者
伊藤 眞
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.301-324, 2008-02

商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty論文環境省は自主参加型排出量取引を平成17年度より実施しており,平成19年3 月15日付で「排出削減クレジットにかかる会計処理検討調査事業」を公表した。そこには,キャップ・アンド・トレードの会計処理について複数の会計処理が提示され,クレジットの無償交付時に,①クレジットもその償却義務も認識しない,②クレジットとその償却義務を認識する,③クレジットのみ認識(償却義務は温室効果ガス排出時に認識)する3 つの考え方が示され,②と③については,事後測定につき原価法と時価法が示されている。 2004年12月に公表された国際財務報告解釈指針第3 号の方法は③の基であるが,この処理に対し欧州財務報告アドバイザリー・グループ等からの懸念が表明され,直ちにこの解釈指針は廃止された。その批判は,約束期間はじめのクレジット無償交付時にクレジットのみ公正価値で認識するため受贈益が生じるのに対し,クレジット償却義務は,その後の事業活動によるガス排出につれて認識するという処理が,両者は一体であり利益は生じないという経営者の感覚に反し,また,当該受贈益は政府補助金として繰延処理するが,利益の繰延べが負債の定義を満たさないため,政府補助金の繰延処理について廃止検討予定である点,さらに,クレジットは原価又は公正価値(評価差額は資本直入)で測定されるのに対し,排出削減義務は現在価値で測定され変動差額は損益に計上されるため,事後測定と報告においてもミスマッチが生じる点にある。 基準年度の実績排出量から削減義務量を控除して算出された総排出枠(キャップ)と同量のクレジットが無償交付されるが,継続企業であればガスを排出する約束期間後に,通常,当該クレジット量を償却するという契約に基づく義務も存在する。無償交付クレジットは企業にとって生存権的な意味合いのもので,収益によりカバーされる必要のないものである。もし収益によりカバー,又は削減義務以上に排出削減できるのであれば,それがほぼ確実となった時に利益認識すればよい。これに対し,有償で取得したクレジットについては,収益により回収されるか,費用削減によってカバーされる必要があるから,償却義務は実際にガスを排出したときに費用とともに認識すればよい。また,認識したクレジット償却義務の範囲でクレジットの時価評価を行うことにより,経済実態を適正に表示することができると考えられる。したがって,経営者の感覚に合うものは上記②の時価法であり,これが適切な会計処理ということになる。 さらに,クレジットは,企業が対象事業活動を行わない,又は廃業した場合には,契約違反として返還しなければならないと考えられるため,クレジットの返還義務は解除されていないと解され,上記条件付償却義務と一体となって無償交付時の負債を構成するものと解釈できる。

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