- 著者
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根津 由喜夫
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学文学部内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.74, no.2, pp.p260-293, 1991-03
一〇二五年、バシレイオスニ世没時のビザンツ帝国は繁栄の絶頂にあるように思われた。だがその一方で、従来の膨張主義的な対外政策は限界に達しようとしており、国内でも、貴族勢力の台頭に伴なう社会の変質が進行していた。本稿の課題は、この時期にビザンツの帝位を占めたロマノス三世アルギュロスの行動の軌跡を追うことで、こうした過渡的時代のビザンツ皇帝権のあり方を考察することにある。とりわけここでは、皇帝が敢行した軍事遠征に焦点を当て、それが彼の政権強化策のなかで占めた重要性を解明したいと思っている。そこで、我々は、彼が皇帝に登位するに至る経緯と、彼の政権の主要構成員の特徴を明らかにすることで、ロマノスが大遠征に乗り出した動因を検証し、さらに、遠征の前後に発生した陰謀事件の分析を通じて、この軍事行動の失敗が彼の権威の失墜を必然たらしめたことを理解することになるのである。