- 著者
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根津 由喜夫
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学文学部内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.80, no.5, pp.639-675, 1997-09
十一世紀の後半に相次いでビザンツ皇帝となったイサキオス一世とコンスタンティノス十世の治世は、対照的な外見を呈している。前者は典型的な軍人皇帝として軍備強化と厳しい緊縮財政を推進したのに対し、後者は民政を重視し、支持者に気前よく財貨を分配した。本稿の課題は、こうした両者の統治スタイルの違いが、彼らの追求した政治的課題の内容に起因していたことを立証することにある。考察の結果、小アジアの有力貴族出身のイサキオス一世が、自らの社会的背景を無視し、国家公権の強化、皇帝独裁権の確立を図ったことが彼の孤立と最終的な退陣を招いたこと、逆に貴族層の利害を尊重し、王朝樹立に精力を集中したコンスタンティノス十世は、貴族たちへの統制力を低下させ、軍事的危機が深刻化するなかで、充分な支配権を行使できなくなり、それが息子への権力継承の阻害要因になったこと、が明らかになった。