著者
鈴木 茂忠 宮尾 嶽雄 西沢 寿晃 高田 靖司
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.p47-79, 1978-07

長野県木曾山脈の主峰,木曾駒ヶ岳(海抜2,956m)の東側斜面小黒川流域に位置する信州大学農学部付属演習林およびその隣接地域において,1975年5月より1977年1月にわたって,ニホンカモシカの食性調査を行った。調査地は海抜1,200~1,600mの低山帯上部(冷温帯)に相当する天然生林である。ニホンカモシカによる採食痕の調査から,食植物を同定し,食植物の周年的変かをほぼ明らかにすることができた。ただし,本調査では,主として食植物の種名を明らかにする定性的段階にとどまった。また,3月および4月の資料は少数であるため省いてある。結果の概要は次の如くである。1)ニホンカモシカの採食痕をみると,草・木本の先端をひきちぎって食べていることがわかり,ニホンカモシカはbrowsing herbivoreまたはsnip feederであると云える。2)ニホンカモシカの食植物として189種を同定することができた。そのうち草本は27科94種,広葉樹は29科85種,針葉樹は2科7種,ササ類が1科3種であった。食植物の種類数は7月に最も多く(106種),11月に最も少なかった(43種)。3)5月から11月までは草本と広葉樹の種類数がほぼ半数ずつを占め,食物はこの2植物群によって供給される。12月から2月の期間には,上記2植物群のほかに常緑針葉樹とササ類の2植物群が加わり,草本の種類数は極めて少なくなる。広葉樹はこの時期に一層重要性を増し,2月には83.1%が広葉樹によって占められている。常緑針葉樹は種類数で約5%,ササ類は約2%程度である。本調査地域には常緑針葉樹の現存量が少ないため,冬季にも副次的な食物源の地位にとどまる。4)周年的にどの月(ただし3・4月は未調査)にも採食痕がみられた植物(周年型食物物)はノリウツギ,タマアジサイ,ヤマアジサイ,クリチゴ,クマイチゴ,マユミ,ハナイカダ,リョウブ,ニワトコ,オオカメノキの10種で,これらはいずれも落葉広葉樹である。春~秋には枝・葉が,冬には越冬芽をつけた枝先が摂食される。これらの次いでほぼ周年的に採食されるのはイタドリ,クサボタン,ノハラアザミ,ヨモギ,ヤマブドウであった。これらの植物は,ニホンカモシカにとって最も基本的な食物源になっていると考えられる。5)早春型食植物としてはフキ(花茎),シロバナエンレイソウ,エンレイソウ,ツクバネソウなどがあげられる。一般の植物に先駆けて緑葉を展開する植物群で,周年型食植物を補充するものとなっているようである。6)夏型食植物はきわめて多様な草本と広葉樹から成る。周年型食植物が夏~秋にも多食され,そのほかにはハナウド,ミヤマゼンゴ,ヨブスマソウ,モミジハグマ,ヨツバヒヨド,リバナ,ミズナ,アカソなどの草本が量的に多く摂食されている。7)晩秋型食植物としてはフキ(葉),広葉樹の落葉,枯草,ミズナラの堅果などをあげることができる。夏・秋から冬への移行期に,短時間ではあるが摂食の対象とされる。8)冬型食植物は常緑針葉樹とササ類の枝・葉で,周年型食植物の不足を補う。冬季(12月~2月)以外には,常緑針葉樹およびササ類は食べられることが殆どない。9)ハシリドコロ,ヤマトリカブト,ヤマオダマキ,コバイケイソウ,ネジキ,トチノキ,フジウツギなどの,いわゆる有毒植物も稀にはあるが摂食されていた。10)本調査地域においてニホンカモシカによる採食痕が認められなかった植物は,アズマシャクナゲ,レンゲツツジ,タケニグサ,スズラン,イワカガミ,マムシグサ類,クサソテツ,シシガシラなどであった。

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編集者: Bcxfubot
2020-10-31 03:53:29 の編集で削除されたか、リンク先が変更された可能性があります。

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