- 著者
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松本 昭彦
Matsumoto Akihiko
- 出版者
- 三重大学教育学部
- 雑誌
- 三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, pp.74-63, 2010
鴨長明『方丈記』の「五大災厄」の部分は、当時起きた災害の事実を基に記しているとされるが、中には「虚構」とされる部分もある。確かに、「養和の飢鯉」について見るに、養和二年の二ヶ月間に供養された遺棄遺体数・四万二千三百や、行き倒れた母の乳にすがる幼子、仏像・寺院を損壊して薪に売る行為等の記事は、古記録等で直接確認できず、事実でない可能性が高い。しかしそれらの記事も、いくつかの状況証拠から、事実でないからといって「虚構」に直結させる必要はなく、長明においては〈事実〉として記憶されていたからこそ、「人と栖の無常」を証拠立てるものでありえたし、それが「閑居の気味」を意義づける条件であったのだと思われる。