- 著者
-
元濱 涼一郎
- 出版者
- 奈良大学総合研究所
- 雑誌
- 総合研究所所報 (ISSN:09192999)
- 巻号頁・発行日
- no.17, pp.41-54, 2009
本稿は、近世の旧賎民が「特殊部落」として近代に再編され、それが現代の「被差別部落」となっているとの立場にたってこれを論じるものではない。それはそもそも、近代にあっても、なお賎民の系譜の連続性が特定の地域を担保して保持されたという虚構を前提としているというだけではなく、差別そのものの根拠を、系譜に求めるという意味で、近代以前の意識そのものを体現しているという点で、二重の矛盾を来たしていると言うべきであろう。近代において、「部落史」が「国民史」として記述されるに至っている現状への批判(畑中敏之、注①)は当然であると言わなくてはなるまい。従って、ここでは、いわゆる「被差別部落」とされる地域と、そこに居住する住民との関係を、人口統計を手掛かりとして見ていくこととしたい。その結果は、「部落」住民とその歴史的系譜について想定されている関係の根拠が、驚くほど薄弱なものであることを示すことになるであろう。以下、広く受容された観念と現実との対照が問題になるが、理論的含意としては、イメージと現実との関係の一具体例を検討することである。先ず、その前提として、近世における賎民層の存在形態を整理しておくことにする。