- 著者
-
人見 佳枝
- 出版者
- 近畿大学臨床心理センター
- 雑誌
- 近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of Center for Clinical Psychology, Kinki University (ISSN:21868921)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, pp.23-30, 2012
[要約] 我が国には古くからリサイクルの文化が根付いており、その歴史は1000年以上前まで遡る事ができる。とりわけ江戸時代には徹底したリサイクルがなされ、いわゆるゴミと言う物は存在しなかったという。人の定住とゴミ問題とが切っても切れない問題となったのは、戦後の大量生産、大量消費時代の到来後である。この頃から廃品回収業者は我々になじみの深いものとなった。また回収するごみの内容も当初は紙が中心であったが、時代とともに変遷し、現在ではオートバイや家電製品などが中心となった。ごみは定住によって生じる負の側面の一つであり、それゆえ、廃品回収業は人間の定住に伴う影の部分と縁の深い業種であると言えるかもしれない。また昨今、環境問題への高い関心を背景に再びリサイクルが脚光を浴びるようになり、現代を象徴する職業の一つとも言える。時代とともに変遷していくのは、環境問題だけではない。テクノロジーの進歩、急激な都市化やそれに伴う人間関係の希薄化などに伴い、妄想の対象やその内容はその時代背景に強く影響される事が知られている。例えば近年における被害妄想の特徴として、想像上の生物などに対してよりは、隣人などの身近な人物により抱きやすくなったと言われている。廃品回収業者も、我々の日常生活においてなじみの深い人たちである。このたび、廃品回収業者に対する妄想から自殺企図に至った症例を経験したため報告する。前述の、定住に伴う負の側面を担う人たちという面に注目し、ユングの「影」の概念に触れつつ、それぞれの個人的および集合的な精神病理について、おもにユング心理学的な見地から考察した。