著者
人見 佳枝
出版者
近畿大学臨床心理センター
雑誌
近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of center for clinical psychology Kinki University (ISSN:21868921)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.65-79, 2013-11-01

[要約]「父の娘」とはユング派の女性分析家によって1980 年代に提出された概念である。この言葉は「父権制の娘」、即ち、個人的な親子関係を越えて「父なるもの」の強い影響下にある女性を意味する。この概念自体は普遍的なものであり、昔から存在するものであるが、新たに脚光を浴びた背景には、女性の社会進出や社会的成功、そしてそれに伴って生じた心理的問題などがあった。それから数十年が経過し、女性の進学や就職は当たり前になった。これに伴って、「父の娘」の課題はすべての女性にとって、より避けて通れないものとなったように見える。本論ではこの概念についてあらためて振り返り、昔話や実際に起った事件などを参考にしながら、現在における「父の娘」について詳細に論じた。 [Abstract]“Father’s daughter” is a concept which was suggested by female Jungian analysts in 1980’s. This means “daughter of patriarchal society” which is like woman under the strong influence of patriarchy. Although this motif is universal, it was paid attention because women started working outside and some of them became successful in the society at that time. While they succeeded in the patriarchal society, they suffered from psychological problems. After a few decades, it is quite normal for women in developed countries to go to school and to work outside. Therefore, the problems of father’s daughter become more unavoidable for every woman in civilized society. In this paper, father’s daughter in current society is discussed in detail through a fairy tale and a real murder case.
著者
人見 佳枝
出版者
近畿大学臨床心理センター
雑誌
近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of Center for Clinical Psychology, Kinki University (ISSN:21868921)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.23-30, 2012

[要約] 我が国には古くからリサイクルの文化が根付いており、その歴史は1000年以上前まで遡る事ができる。とりわけ江戸時代には徹底したリサイクルがなされ、いわゆるゴミと言う物は存在しなかったという。人の定住とゴミ問題とが切っても切れない問題となったのは、戦後の大量生産、大量消費時代の到来後である。この頃から廃品回収業者は我々になじみの深いものとなった。また回収するごみの内容も当初は紙が中心であったが、時代とともに変遷し、現在ではオートバイや家電製品などが中心となった。ごみは定住によって生じる負の側面の一つであり、それゆえ、廃品回収業は人間の定住に伴う影の部分と縁の深い業種であると言えるかもしれない。また昨今、環境問題への高い関心を背景に再びリサイクルが脚光を浴びるようになり、現代を象徴する職業の一つとも言える。時代とともに変遷していくのは、環境問題だけではない。テクノロジーの進歩、急激な都市化やそれに伴う人間関係の希薄化などに伴い、妄想の対象やその内容はその時代背景に強く影響される事が知られている。例えば近年における被害妄想の特徴として、想像上の生物などに対してよりは、隣人などの身近な人物により抱きやすくなったと言われている。廃品回収業者も、我々の日常生活においてなじみの深い人たちである。このたび、廃品回収業者に対する妄想から自殺企図に至った症例を経験したため報告する。前述の、定住に伴う負の側面を担う人たちという面に注目し、ユングの「影」の概念に触れつつ、それぞれの個人的および集合的な精神病理について、おもにユング心理学的な見地から考察した。
著者
人見 佳枝
出版者
近畿大学臨床心理センター
雑誌
近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of center for clinical psychology Kinki University
巻号頁・発行日
no.4, pp.31-43, 2011-10-01

[要約] 臨死体験に関する記述やモチーフは、古くから洋の東西を問わず、文学作品や絵画などに散見される。しかしオカルトの類と関連づけられやすく、長い問、これらが研究の対象となることはなかった。キューブラー・ロスが1975年に出版した『死ぬ瞬聞』は世界中でベストセラーとなった。これ以後、さまざまな臨死体験に関連する書籍が出版され、臨死体験を含む「死」についてもオープンに語られるようになった。典型的な臨死体験の内容はほぼ共通している。そのうちのある部分は、その人の属する文化、宗教観などに影響を受ける。しかしながら核となる体験においてはほぼ共通した特徴が認められ、従って臨死体験は個人的な内容と、普遍的な内容との二重構造になっているといえる。臨死体験後、体験者に起こる変化も興味深い。臨死体験後には「宗教的というよりスピリチュアルになる」「特定の宗教にとらわれなくなり、自分の内なる神を信じるようになる」などといった変化が起こることが報告されており、これは体験者の文化や宗教の違いを問わない。分析心理学の創始者であるC.GJungは最も有名な臨死体験者のうちの一人である。臨死体験はその後の彼の人生に強い影響を与えており、それが彼に人聞の本質についてのより深い洞察をもたらし、新しい世界観(dieWeltanschauung)を与えたことが推察される。このように、臨死体験は分析心理学において極めて興味深いテーマであり、論ずるべき内容を多く含んでいる。分析心理学においては夢やイメージなどを無意識からのマテリアルとして重要視するが、臨死体験も同様の見地から考察することが可能であると考えられる。 [Abstract] Description and motifs of near death experience (NDE) can be seen ancient literatures and paintings but it was not an object of research for long time. This theme was never talked openly because everyone was afraid that they were regarded as psychotic or occultist. "On Death and Dying ″ was published by Kubler Roth in 1975. This book triggered a tendency that NDE can be discussed openly. After "On Death and Dying ", a lot of books about NDE were published and researches were also started from various field. There are a lot of interesting contents in NDE. Some of these contents depend on each culture, race and religion. However, core contents are quite common among the whole human beings. So NDE has dual contents, personal and universal. It is also interesting what will happen to people after NDE. Generally, it is known that people become more spiritual rather than religious. They come to feel inner God, but they are not prepossessed with particular religion any more. Jung had NDE when he was 69 years old. It is tremendous dynamic experience and it changed the rest of his life dramatically. That is to say, he got deeper insight of essential human beings and new worldview. Thus NDE includes quite important essence for religion and analytical psychology. Although NDE and dream are discriminated, it is possible to discuss on the same ground. Even if pattern of experience is different, both of them come from unconscious.
著者
人見 佳枝
出版者
近畿大学臨床心理センター
雑誌
近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of Center for Clinical Psychology, Kinki University (ISSN:21868921)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.31-43, 2011

[要約] 臨死体験に関する記述やモチーフは、古くから洋の東西を問わず、文学作品や絵画などに散見される。しかしオカルトの類と関連づけられやすく、長い問、これらが研究の対象となることはなかった。キューブラー・ロスが1975年に出版した『死ぬ瞬聞』は世界中でベストセラーとなった。これ以後、さまざまな臨死体験に関連する書籍が出版され、臨死体験を含む「死」についてもオープンに語られるようになった。典型的な臨死体験の内容はほぼ共通している。そのうちのある部分は、その人の属する文化、宗教観などに影響を受ける。しかしながら核となる体験においてはほぼ共通した特徴が認められ、従って臨死体験は個人的な内容と、普遍的な内容との二重構造になっているといえる。臨死体験後、体験者に起こる変化も興味深い。臨死体験後には「宗教的というよりスピリチュアルになる」「特定の宗教にとらわれなくなり、自分の内なる神を信じるようになる」などといった変化が起こることが報告されており、これは体験者の文化や宗教の違いを問わない。分析心理学の創始者であるC.GJungは最も有名な臨死体験者のうちの一人である。臨死体験はその後の彼の人生に強い影響を与えており、それが彼に人聞の本質についてのより深い洞察をもたらし、新しい世界観(dieWeltanschauung)を与えたことが推察される。このように、臨死体験は分析心理学において極めて興味深いテーマであり、論ずるべき内容を多く含んでいる。分析心理学においては夢やイメージなどを無意識からのマテリアルとして重要視するが、臨死体験も同様の見地から考察することが可能であると考えられる。 [Abstract] Description and motifs of near death experience (NDE) can be seen ancient literatures and paintings but it was not an object of research for long time. This theme was never talked openly because everyone was afraid that they were regarded as psychotic or occultist. "On Death and Dying ″ was published by Kubler Roth in 1975. This book triggered a tendency that NDE can be discussed openly. After "On Death and Dying ", a lot of books about NDE were published and researches were also started from various field. There are a lot of interesting contents in NDE. Some of these contents depend on each culture, race and religion. However, core contents are quite common among the whole human beings. So NDE has dual contents, personal and universal. It is also interesting what will happen to people after NDE. Generally, it is known that people become more spiritual rather than religious. They come to feel inner God, but they are not prepossessed with particular religion any more. Jung had NDE when he was 69 years old. It is tremendous dynamic experience and it changed the rest of his life dramatically. That is to say, he got deeper insight of essential human beings and new worldview. Thus NDE includes quite important essence for religion and analytical psychology. Although NDE and dream are discriminated, it is possible to discuss on the same ground. Even if pattern of experience is different, both of them come from unconscious.
著者
人見 佳枝
出版者
近畿大学臨床心理センター
雑誌
近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of center for clinical psychology Kinki University
巻号頁・発行日
no.3, pp.49-59, 2010-10-01

[要約] 切腹は日本人が普遍的に心に抱いてきた、名誉を重んじる自死の象徴である。これは「死によって自己の最終責任を果たす」という日本人に共通の民俗のもとになったとされている。その象徴的な意味とその変遷について、主に千葉徳爾氏の著書を引用しつつ、腹部刺創による自殺企図患者について検討を行い、その共通点について論じた。腹部刺創における自殺企図患者においては、相手の目の前で企図する、企図後の精神科的援助を拒否することに特徴があり、これらは男性に顕著であった。これらは切腹が本来もっていた「誠意を示す」「分かってもらう」といった意味合いと共通点を示す一方、彼らなりの「男とはこうあるべき」という、いわゆるmachismoとの関連も伺われた。切腹と現代の腹部刺創を単純に比較することはもちろんできないが、民俗学的な見地からながめた場合、切腹の象徴的な意味は自殺企図全体に通底していており、腹部刺創も例外ではないものの、日本人の切腹に対して持つイメージが変わっていくにつれて減少していくのではないかと推察される。
著者
人見 佳枝
出版者
近畿大学臨床心理センター
雑誌
近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of center for clinical psychology Kinki University
巻号頁・発行日
no.1, pp.29-40, 2008-09-01

[要約] Jungのアルコール依存症に対する基本的な考えを紹介し、特徴的な症状や病態について分析心理学的な立場から考察した。すなわちアルコール依存症とは否定的な女性性にとらわれた混沌とした状態のなかで起こっており、そこから抜け出すためには「切る」という言葉に代表される男性的な力を必要とする。 Jungは個性化について「人が心理学的な個体になることであり、分割できない統一性(in-dividual)、全体性に至るプロセス」であると定義しているが、断酒そのものが個性化に至ろうとするプロセスそのものであるといえる。従ってアルコール依存症患者とは「霊的な渇きの低い水準の表現」を捨ててより高い水準への変容を目指す人々と考えられた。