著者
川口 敦子
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.29, pp.67-74, 2012

ドミニコ会士ディエゴ・コリャードによる『羅西日辞書』(1632年ローマ刊)について、2011年のローマおよびヴァチカンでの調査を中心に、諸本の異同を検討する。『羅西日辞書』の日本語訳は未だ公刊されていないが、翻訳のためにも、文献研究の基礎とも言うべき諸本の比較と最善本の選定は重要である。『羅西日辞書』はイエズス会のキリシタン版に比べると現存する数が多く、一部の諸本の異同については既に大塚光信氏による研究があるが、本稿はこれに加えて、アレッサンドリナ図書館、ウルバノ大学図書館、ヴァチカン図書館、ヴァリチェリアナ図書館、ライデン大学図書館、東京大学総合図書館が所蔵する本の異同について検討し、諸本の成立過程について考察した。正誤表に基づいて異同箇所を検討したところ、版の先後関係はやや複雑で、単純に一方向を示してはいなかった。中には、改版前の古い折丁が改版後の製本段階で紛れ込んだかと推測される例もある。また、『羅西日辞書』は正篇(補遺を含む)と続篇で構成されているが、異同の状態から、正篇と続篇は別々に印刷されたものであることが推定できる。現存する諸本は「正篇のみ」「正篇と続篇の合冊」「正篇と続篇の分冊」のいずれかの形で製本されているが、これは別々に印刷した正篇と続篇を組み合わせて製本した結果と言える。こうした複雑な異同の状態を踏まえて、『羅西日辞書』を日本語資料として活用するためにも、ヨーロッパ各地に多く現存する諸本の調査と研究が今後の課題である。

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