著者
川口 敦子 KAWAGUCHI Atsuko
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 = JINBUN RONSO : BULLETIN OF THE FACULTY OF HUMANITIES, LAW AND ECONOMICS (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.79-87, 2018-03-31

本稿は、拙稿「旧トレド管区イエズス会文書館および旧パストラーナ文書館の日本関係文書のカタログ番号について」(『人文論叢:三重大学人文学部文化学科研究紀要』34、2017年3月)の内容を補うものである。松田毅一『在南欧日本関係文書採訪録』(養徳社、1964)のカタログに記載されている日本関係資料について、前回の現地調査時に確認できなかった資料のうち、2017年9月の現地調査によって確認できた資料の新番号と追加情報を報告する。
著者
川口 敦子 KAWAGUCHI Atsuko
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.61-71, 2011-03-30

キリシタン資料のバレト写本(1591写)には、カラタチを意味するゲズという語が見え、これが文献上での最古の用例と考えられる。文献からは、18世紀以来、ゲズはカラタチの九州方言であったことがわかる。バレト写本以外に近世より前の用例を見出すことはできないが、現在、「枳殻」「枳」をゲズ等と読む地名や姓が九州を中心に偏って分布しており、他の地域に名残も見あたらないことから、ゲズはかなり特定の地域に偏った語であることが窺える。『日本国語大辞典』第二版ではゲズをカラタチの古名とするが、むしろバレト写本の時代から方言であったと見るのが妥当であろう。バレト写本に現れるゲズの例は、方言に対して意識的であったはずのキリシタン宣教師が、それと気付かずに使用した方言の例と考えられる。
著者
川口 敦子
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.29, pp.67-74, 2012

ドミニコ会士ディエゴ・コリャードによる『羅西日辞書』(1632年ローマ刊)について、2011年のローマおよびヴァチカンでの調査を中心に、諸本の異同を検討する。『羅西日辞書』の日本語訳は未だ公刊されていないが、翻訳のためにも、文献研究の基礎とも言うべき諸本の比較と最善本の選定は重要である。『羅西日辞書』はイエズス会のキリシタン版に比べると現存する数が多く、一部の諸本の異同については既に大塚光信氏による研究があるが、本稿はこれに加えて、アレッサンドリナ図書館、ウルバノ大学図書館、ヴァチカン図書館、ヴァリチェリアナ図書館、ライデン大学図書館、東京大学総合図書館が所蔵する本の異同について検討し、諸本の成立過程について考察した。正誤表に基づいて異同箇所を検討したところ、版の先後関係はやや複雑で、単純に一方向を示してはいなかった。中には、改版前の古い折丁が改版後の製本段階で紛れ込んだかと推測される例もある。また、『羅西日辞書』は正篇(補遺を含む)と続篇で構成されているが、異同の状態から、正篇と続篇は別々に印刷されたものであることが推定できる。現存する諸本は「正篇のみ」「正篇と続篇の合冊」「正篇と続篇の分冊」のいずれかの形で製本されているが、これは別々に印刷した正篇と続篇を組み合わせて製本した結果と言える。こうした複雑な異同の状態を踏まえて、『羅西日辞書』を日本語資料として活用するためにも、ヨーロッパ各地に多く現存する諸本の調査と研究が今後の課題である。
著者
川口 敦子
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

前年度にイエズス会ローマ文書館(ローマ、イタリア)で調査収集した資料のうち、日本巡察師ジェロニモ・ロドリゲス宛の書簡2点(Jap.Sin.34,180r-181v,188r-189v)のローマ字書き日本語の本文を翻刻・翻字し、考察した。発信年は不明であるが、発信者とその内容から、1621年頃に書かれたものであると推定した。全体的にキリシタン版の規範にほぼ則った表記であるが、188r-189vの書簡では、版本では二重母音イイを示す表記ijをジの表記とする、特異な表記が見られる。この研究成果は「国語と教育」(長崎大学)第32号に発表した。2007年9月にはポルトガルのアジュダ図書館、リスボン国立図書館、リスボン科学アカデミー図書館(以上リスボン)、エヴォラ公共図書館(エヴォラ)、マヌエル2世図書館(ヴィラ・ヴィソーザ)において、キリシタン関係の写本・書簡類およびキリシタン版を閲覧・調査し、資料の保存状態についての意見交換、先方の書誌情報の修正等の学術的交流を行った。このうち特に重要と思われる資料10点の複写を収集した。ポリトガルでの調査では、ローマ字書き日本語文の文書を探し出すことは困難で、このことからも、イエズス会ローマ文書館に所蔵されているローマ字書き日本語文の書簡は希少なものであり、資料的価値が高いと言える。平成17年度からの研究成果を総合してみると、キリシタンの写本・書簡類におけるローマ字書き日本語の表記は概ね版本の規範に準しており、活用語尾のcuとquの書き分けも守られている。その一方で版本には見られない特異な表記も散見し、年代による傾向も認められるが、個人の癖に拠るものもあるかと思われる。反復記号「.y.」のようなポルトガル語の古文書でも見かけない表記もあり、これらの特異な表記が何に由来し、日本のキリシタン社会でどのような広がりを見せていたのか、今後追究すべき課題である。
著者
川口 敦子
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.1-15, 126, 2000-12-30

ヴァティカン図書館蔵写本Reg. Lat. 459.(バレト写本)ではジ=ji,ヂ=jji,ズ=zu,ヅ=zzuと表記しているが,ズヅの混乱例がジヂに比べて非常に多い。国内文献ではズヅの混乱例は極めて少ないのであって,バレト写本の表記が当時の日本語における四つがなの混乱の状態をそのまま反映しているとは言い難い。16世紀末当時のポルトガル語やスペイン語では破擦音はすでに失われており,ロドリゲスなどの文典からは,当時のヨーロッパ人にとって特にヅの発音が困難であったことがわかる。当然,聞き取りにも困難を感じたはずで,ヅをズと聞き誤ることも多かったと考えられる。外国人宣教師にとってはジヂよりもズヅの区別が難しかったのである。バレト写本におけるズヅ表記の混乱の多さは,その成立のある段階で音声を介在させていたと考えることによって説明がつく。写本のローマ字表記については,ヨーロッパ人の母語の干渉によって歪められた日本語の姿が映し出されている可能性も十分考慮に入れなければならない。