- 著者
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中村 桃子
- 出版者
- 関東学院大学経済研究所
- 雑誌
- 経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
- 巻号頁・発行日
- vol.252, pp.1-17, 2012-07
本稿は、1970年代のアメリカ映画字幕で使用された女ことばを例に挙げて、現代でも翻訳は日本語の変化をけん引している側面があることを明らかにする。1章では、マンガの分析から、それまでていねいさや従順さの表現とみなされてきた女ことばが、1970年代から悪意・高飛車な態度・怒りなどを表現する際に用いられている現状を報告する。2章では、このような変化の要因の一つとして、フェミニズムの影響により1970年代のアメリカ映画のヒロインが現れ、彼女たちのせりふが女ことばに翻訳された事情が考えられることを示す。戦い、闘う、強い西洋女性の身体が発する女ことばが広く消費されたことにより、女ことばの再生産だけでなく、変化までもが翻訳に先導されているとしたら、日本語とジェンダーの最も重要な関係である女ことばの構築、再生産、変革において、翻訳が思いがけなく大きな働きをしていると言える。結論では、女ことばの構築、白人性による女らしさの正当化、および、言語イデオロギーが翻訳過程に与える影響に関して本稿の分析が示している理論的示唆を論じる。